現生人類(ホモ・サピエンス)はアフリカ起源。世界規模の拡散は主に約7万〜5万年前に起こり、 インド洋沿岸を伝う「南回り」とレバント(ナイル〜シナイ)経由の「北回り」が重層的に関与した。 道中でネアンデルタール/デニソワとの交雑痕跡が現代人ゲノムに残る。
世界規模での旧石器時代(約300万〜1万年前)
- 📌 約330万年前:ケニア・ロメクウィ3で最古級石器(打撃・剥離痕が明瞭)。
- 📌 約300〜260万年前:ケニア・ナヤンガで初期オルドワン(地理的拡大の実例)。
- 📌 約12〜9万年前:レバントのスフル/カフゼに早期の出アフリカ到達痕跡(後続の大拡散とは連続性に議論)。
- 📌 約7万〜5万年前:出アフリカ:現代人に広くつながる主流の拡散(沿岸ルート+内陸回廊が時期・地域で複線)。
出アフリカ:複線モデルの要点(交雑とルートの細部)
出アフリカは一筆書きではない。 レバントを抜ける北回りに加え、アラビア〜インド洋沿岸を伝う南回りの「複線モデル」が主流。地域ごとに時期・証拠が異なる。タイミングは7万〜5万年前が本流。 それ以前にも外洋への試行はあるが、現代人に大きな遺伝的足跡を残したのは後期の拡散とみられる。交雑が“途中で起きた”。 非アフリカ集団にネアンデルタール、オセアニア・東南アジアでデニソワの遺伝片が残る。
交雑の位置づけ
- 非アフリカ人に共通するネアンデルタール由来DNAは平均約1〜2%。 最初の大きな交雑はアフリカ脱出直後(レバント周辺)で起き、その後に北・南ルートへ分岐したとみるのが主流。 東アジアでは後期に追加パルスがあった可能性も議論されています。
- デニソワ由来はメラネシア系で~3–5%前後など南方で厚く、南回りの関与を示します。
南ルート(アフリカ東部→アラビア→インド→スンダランド→ワラセア→サフル)
- 紅海横断:低海面期でも完全陸橋は成立せず。島伝いで短距離航海が必要(最短はハニシュ周辺)。
- スンダランド:広い陸棚が露出し徒歩区間が拡大。
- ワラセア越え:複数の海峡横断が不可避で計画的航海が前提。
- サフル到達:≥5万年前は確実、~6.5万年前説も有力
北ルート(レバント→欧州・ステップ・シベリア)
- 欧州最初のホモ・サピエンス:概ね~4.5万年前(Bacho Kiro ほか)。局所的にネアンデルタールとの小規模交雑が継続。
- 後代の再編:新石器農耕民+青銅器時代ステップ系が重なり、現代ヨーロッパ人は多層混合で説明
中央アジア〜東アジアの枝
東アジアは複数波の重層が基本。チベット高地では北方系の強い寄与と高地適応が古DNAで追跡されています。
備考:アメリカ大陸
2万〜1.5万年前ごろにベーリング地帯から進入し、1.6万〜1.4万年前以降に考古学的シグナルが北米で明瞭化。 (沿岸/内陸両ルートが想定)
根拠|考古・古環境・ゲノムの三本柱
- 考古:沿岸適応を示す遺構・石器群(インド洋縁辺)/レバントの人骨とムステリアン期遺物。
- 古環境:海面・降水・植生の変動に応じて回廊が開閉(レバント湿潤期/アラビアの「グリーン」期)。
- ゲノム:非アフリカ集団に1〜数%のネアンデルタール由来、一部(特にパプアなど)にデニソワ由来が残存。
用語メモ|「猿人・原人・旧人・新人」は使わない方向
旧来の区分(猿人/原人/旧人/新人)は系統・年代の重なりが大きく、現代研究では系統名と属・種(例:ヒト属 Homo、ホモ・サピエンス(現生人類)、ネアンデルタール人、デニソワ人)で記述する。 なお、最古級の石器(ロメクウィ3, 約330万年前)と初期オルドワン(ナヤンガ, 約300〜260万年前)は、 石器使用がホモ属出現以前にも及ぶ可能性を示す重要事例。
同時期に複数のヒト属が並存、その後に消滅(交雑を含む)
更新世後期には、H. sapiensのほかにネアンデルタール人・デニソワ人・H. floresiensis・ H. luzonensisなどが地域ごとに並存。これらは約5万〜3万年前にかけて消滅(あるいは一部の遺伝子が H. sapiensに取り込まれて消滅)し、現生人類のみが存続。欧州では約4.5万年前の初期 H. sapiensとネアンデルタールの共存・交雑例が知られ、デニソワ系はチベット高地で 〜3.2万年前頃まで存続した可能性がある(古DNA・堆積物DNA)。
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- C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
- A:現生人類のアフリカ起源/主流の拡散が約7万〜5万年前。
- A:非アフリカにネアンデルタール由来DNA ≈ 1–2%。
- A:メラネシア系のデニソワ寄与(~3–5%)。
- A:紅海南口は陸橋にならない/短距離航海が必要(※距離や具体経路の推定はB)。
- B:「南回り+北回り」の複線モデル(ルート寄与の比率・時期差に幅)。
- A:交雑が生じたこと自体(ネアンデルタール/デニソワ)。
B:交雑の場所・回数・タイミングの細部。。
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参考資料
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- Browning, S.R. et al. 2018 “Two pulses of Neanderthal introgression”. Cell
- Reilly, P.F. & Moyle, P.B. 2022 “Contribution of Neanderthal introgression”. Review (Open)
- Vespasiani, D.M. et al. 2022 “Denisovan introgression & immune system”. PNAS Nexus