ー 縄文のはじまり(G4)|細石刃の終焉と広葉樹林への適応 ー
日本列島の細石刃(マイクロブレード)は、終末氷期〜完新世初頭(約1.4万〜1.0万年前)にかけて多くの地域で終焉し、代わって剥片主体の石器や磨製石器・すり石が増える。背景には気候の温暖化と広葉樹林の拡大、資源の多様化(堅果・魚介)への適応がある。事例として福井洞窟や泉福寺洞窟では、細石刃と初期土器の併存が確認され、転換の現場が見える。これらの傾向は北海道などでの地域差を伴いつつも、列島規模で整合的に観察できる。
30秒要点
- いつ終わった? 多くの地域で終末氷期〜完新世初頭に細石刃が終焉(地域差あり、北海道は端末期に集中)。
- なぜ変わった? 気温・降水の回復で広葉樹林(どんぐり・栗・胡桃)が広がり、煮る+粉にする調理が有利に。
- 何に置換? 剥片主体+磨製石斧・すり石・敲打具など“加工・調理”系の道具が増加。
- どこで見える? 福井洞窟・泉福寺洞窟(九州西岸)、白滝遺跡群(北海道の黒曜石源)が代表例。
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このセクションの個別ノート
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本論
1)細石刃とは何か:移動性に強い「軽量・標準化」技術
細石刃は小型の規格刃を大量生産する技術で、携帯性・修理性に優れるため氷期の高い移動性に適した。北太平洋沿岸の楔形石核などは広域に共有され、北海道・北東本州でも普及した。
2)終焉のタイミング:地域差をともなう「端末期」収束
最新の総説は、北海道での消滅が終末氷期(ヤンガードリアス含む)〜完新世初頭に進んだことを示す。九州・本州の多くでも同時期に細石刃比率が下がり、剥片主体・磨製石器の比重が上がっていく。
3)広葉樹林への適応:堅果・魚介と「煮る+粉にする」
温暖・湿潤化により落葉広葉樹林が拡大し、どんぐり・栗・胡桃など堅果資源が豊富になる。すると、アク抜き・煮出し・粉砕に強い道具(深鉢土器、すり石、磨製石斧)が活躍。狩猟一辺倒から採集+水生資源の比重が上がる。
4)ケーススタディ:九州西岸の洞窟と北海道・白滝
- 福井洞窟(長崎):約1.4〜1.6万年前に細石刃が大量生産され、やがて初期土器が現れる層位。細石刃→土器利用への橋渡しが層で観察できる(図指示:層位の概念断面)。
- 泉福寺洞窟(長崎):細石刃・石核・多様な剥片がまとまって出土。季節キャンプでの調理・加工の多様化が読める。
- 白滝遺跡群(奥白滝1)(北海道):黒曜石源に隣接する細石刃工房の基準資料。終焉の直前段階まで、技術の粘り強い継続を示す。
根拠と限界
- 根拠:層位学・放射性炭素年代・石器組成の数量化、花粉分析(植生復元)、産地同定(黒曜石)。
- 限界:地域差が大きい/細石刃の「完全な消滅」ではなく部分継続もある/年代の誤差帯。
確度 A/B/C
※このサイトでは、資料の信頼度(A / B / C)を簡単なラベルで示します。
詳しくは 凡例:、資料の信頼度(A / B / C)へ →
- A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
- B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
- C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
- A:北海道を含む列島で端末期〜初頭に細石刃が大きく後退した事実(複数一次資料・総説の合意)。
- B:広葉樹林の拡大と、すり石・磨製石器・土器の実用増(花粉・考古学の整合)。
- C:気候→技術転換の因果の比重(狩猟戦略・人口動態・社会関係など他要因の寄与は地域差が大きく仮説段階)。
参考資料
- Takakura, J. (2020). Rethinking the Disappearance of Microblade Technology in the Terminal Pleistocene of Hokkaido. Quaternary.
- Fukui Cave Museum (Sasebo). Pamphlet (EN) — microblade (14–16 ka) & earliest pottery.
- Iizuka, F. (2017). Late Upper Paleolithic–Initial Jomon transitions (S. Kyushu).
- AKARENGA(道立赤れんが). Paleolithic & Jomon (Shirataki microblades).
- Yakushige, M. (2014). Shirataki obsidian exploitation and circulation. Journal of Lithic Studies.