奈良時代初頭に編纂された全30巻の漢文史書であり、日本の神話的な創世から持統天皇期までの天皇中心の歴史を、中国の正史にならった編年体で叙述した、日本最初の本格的な「国家公式の歴史書」である。
基本情報
| 対象年代 | 天地開闢と神々の時代(神代・伝説期)からはじまり、神武の東征と紀元前660年の建国年を起点とする皇統の物語を展開しつつ、7世紀末の持統天皇期まで |
| 成立時期 | 天武天皇の指示で始まった史料整理を引き継ぎ、奈良時代初頭に編纂された。720年、舎人親王が全30巻と系図1巻を完成させ、元明上皇・元正天皇に奏上した。 |
| 編者 | 編纂の総裁は天武天皇の皇子・舎人親王で、『続日本紀』は「舎人親王が勅命を奉じて日本紀を修した」と伝える。実務面では『古事記』編者の太安万侶ら漢文・中国史に通じた知識人が参加し、氏族伝承や外来史料をまとめて、中国正史にならう「天皇王朝の公式ヒストリー」を作り上げた。 |
体裁・構成
| 編年体の「紀」30巻 | 太古の神話から持統天皇までを年次順に記す。 |
| 系図1巻(現存せず) | 皇統および主要氏族の系譜をまとめた付属巻が存在したと伝えられるが、現代には失われており、その内容は中世の注釈書や他書に残る引用から部分的に復元されている。 |
該当巻の例
『日本書紀』:天皇史を再構成した朝廷公式ヒストリー
『日本書紀』は、天武天皇の勅命で始まった「帝紀・旧辞整理」を土台に奈良朝で完成した天皇中心の漢文史書で、天孫降臨から続く神話的な長い皇統と、律令にもとづく統治システムをセットで描き出すことで、「私たちの王朝は神代から連なる正統な天皇の国であり、中国式の正史にも乗るレベルの律令国家だ」と、内側の人びとにも東アジア世界にも納得させようとした朝廷側の自己物語の中核テキストである。
主な注釈
『釈日本紀』(卜部兼方編・鎌倉時代): 1274〜1301年ごろに卜部兼方が編んだ全28巻の大部な注釈書。
よくある誤解と注意
- 日本書紀の最初から最後までが“客観的な年代記”として信頼できる
→ 正しくは、前半の神話・上代天皇期は伝承と政治的構成の要素が強く、建国年(紀元前660年)や多くの天皇の在位年数が後付けの調整とみなされている。一方で、7世紀後半(天智・天武・持統期)については、他史料とも整合する具体的記事が多く、比較的信頼度が高いと評価される。 - 日本書紀は“純粋な日本の伝統”をそのまま写した本で、中国とは独立している
→ 実際には、書名・体裁・文体のすべてが中国正史を強く意識しており、漢文で書かれた編年体の歴史書として「中国に提示できる王朝史」を目指して編まれている。倭国・日本の物語を、中国的な歴史観・政治理論の枠の中に翻訳したテキストとして読む必要がある。 - 日本書紀さえ読めば、古代日本の対外関係はそのまま再現できる
→ 日本書紀は内側(朝廷側)から見た物語であり、年次や事件の描写は『隋書』『旧唐書』『新唐書』など中国正史と食い違うことも多い。
参考サイト
- Japanese Historical Text Initiative「日本書紀」: 原文(漢文)と Aston 英訳を対応させて閲覧・検索できるデジタル版。
