黒曜石ネットワークの萌芽|日本海縁の広域流通

ー 縄文のはじまり(G4)|黒曜石ネットワークの萌芽 ー

氷期末〜完新世初頭(約1.6万〜0.9万年前)、日本海の沿岸・海峡・島をむすぶ 黒曜石の広域流通が立ち上がる。北海道・白滝黒曜石源の石材は 礼文島などの島嶼へ搬入され、隠岐島後の黒曜石は山陰から越後沿岸へも及ぶ。 これらは地球化学的な原産地同定(XRF など)と遺跡の層位・年代により裏づけられる。

30秒要点

  • なにが分かる? 黒曜石は産地ごとに元素組成が違うため、原産地同定で流通が追える。
  • どこが起点? 北は白滝黒曜石源(奥白滝1など工房群)、西は隠岐島後が主要原産地。
  • どこへ運ばれた? 礼文島などの島嶼・沿岸の受容地、越後沿岸など(時期差あり)。
  • どう運んだ? 海進前夜の内湾・海峡を活用した沿岸航走+島ノード(節点)による搬出入。
  • なぜ広がる? 移動・交換・贈与に加え、石器のメンテ性や品質の高さが価値を支えた。

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初期表示レイヤー:01, 03, 04, 05, 10 / 版:v202501004

このセクションの個別ノート

本論

1)証拠:原産地同定(XRF等)で見える「つながり」

黒曜石は産地ごとに微量元素の比が異なるため、蛍光X線(XRF)などで分析すると 出土品の来し方が分かる。研究は北海道の白滝を中心に進み、 礼文島の遺跡群から見つかった黒曜石が白滝起源を示す事例が報告されている。西日本では 隠岐島後の黒曜石が山陰〜越後・四国へ流れていたことが地学・考古の両面から示される。

2)ルートの条件:日本海縁の「沿岸・海峡・島」

海面上昇が進む前後の海進の前夜には、内湾・海峡が連なる日本海縁で 沿岸航走(岸沿い移動)と島嶼ノード(礼文・隠岐など)が節点として働く。 移動の安全性・見通し・補給点の確保が、原産地→受容地の分節的な流れを可能にした。

3)事例:白滝→礼文/隠岐→山陰→越後

  • 白滝→礼文島:北海道北部の白滝黒曜石源(工房群;奥白滝1遺跡を含む)から、宗谷海峡沿いに礼文島へ搬入されたとみられる。
  • 隠岐→山陰→越後:隠岐島後の黒曜石は山陰沿岸を北上し、時期によっては越後沿岸にも届く分布が示される。

4)ネットワークの性格:経済だけでなく「関係づくり」も

黒曜石の移動は、実用品の確保(刃物素材)に加えて、贈与・互酬などの社会関係を強める役割も考えられる。 ただし具体的な交換様式は地域差が大きく、現段階では仮説レベルである。

根拠と限界

  • 根拠:黒曜石の地球化学的原産地同定(XRF等)、遺跡の層位・放射性炭素年代、地形・航走の合理性。
  • 限界:搬入経路は概略線で、季節・風向・波浪などの実運行は不明。遺跡間の再堆積・混入も評価課題

確度 A/B/C

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  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
  • A:白滝・隠岐など原産地→受容地の対応(分析一次データの積み上げ)。
  • B:日本海縁での沿岸航走+島ノードによる分節移動(複数研究の整合)。
  • C:交換の社会的様式(贈与・互酬・儀礼)の実像と比重は仮説段階。

参考資料

  1. Yakushige, M. (2014). Shirataki obsidian exploitation and circulation in prehistoric northern Japan. Journal of Lithic Studies.
  2. Oki Islands UNESCO Global Geopark. Lifestyles and Traditions: Oki obsidian trade(隠岐産が山陰〜越後・四国へ)。
  3. Lynch, S.C., Katō, H., Weber, A. (2016). Obsidian resource use on Rebun Island.(礼文の受容と白滝起源の議論)
  4. Aikens, C.M. et al. (2009). The Millennial History of a Japan Sea Oikumene. Asian Perspectives.