地域の俯瞰(世界)

世界史は「どこを通れて、どこが詰まるか」で動く。三角州・大河・海峡・回廊・草原・オアシス——地形と水系がつくる“動脈と関所”に着目して、古代から現代までを一望します。

古代:デルタと大河の国家化

ナイル・メソポタミア・インダス・黄河の三角州/氾濫原に都城と穀倉が集中。治水・灌漑が政治の中枢となり、運河と舟運が行政・徴税の基盤になる。

  • 水系:ナイル下流、チグリス=ユーフラテスの分流網、インダス平原、黄河の遊水地。
  • 沿岸:地中海沿岸の港市(ティール、アレクサンドリア)が沿岸航行で結節。
  • キーワード:運河・灌漑/穀倉地帯/港市ネットワーク。

古典〜後期古代:海の道と陸の網

地中海は内海交通で一体化し、ボスポラス〜ダーダネルスが“扉”に。紅海—インド洋ではモンスーン航路が確立し、アデン—グジャラート—マラバールが中継点となる。

  • 道と節点:ローマ街道+地中海航路/エジプト紅海港—インド西岸の季節航海。
  • 海峡:ヘレスポント(ダーダネルス)、ボスポラスが外交・軍事の関門。
  • キーワード:内海統合/季節風/地峡越えの短絡路。

中世:ステップとオアシスの連結

ユーラシア草原の遊牧帝国が通信・軍事の回廊を形成。タリム盆地のオアシス連鎖が商隊の命綱となり、ホルムズ・マラッカなどの狭海支配が貿易と覇権を左右する。

  • 草原回廊:ポンティック草原〜モンゴル高原の帯状ネット。
  • オアシス:敦煌・カシュガル・ホータン・サマルカンド・メルヴ。
  • 海峡:ホルムズ、マラッカ、バブ・エル・マンデブ。

大航海:外洋ルートの開通

喜望峰回りでアフリカ南端—インド洋—東アジアが直結。アゾレス・カーボヴェルデ・フィリピン群島などの群島が風待ちと補給のハブに。

  • 外洋:偏西風・貿易風の利用/大西洋—インド洋の循環航路。
  • 港市:マラッカ、ゴア、マカオ、マニラ(ガレオン貿易)。
  • キーワード:海図・測位/砦港・特許会社。

近世後期:大西洋の三角と地中海の扉

カリブと大西洋の三角貿易が成立し、ジブラルタルが地中海の鍵に。港市と背後地(ヒンターランド)の結節が国家財政を下支え。

  • 節点:ハバナ、カディス、ブリストル、ナント。
  • 海峡:ジブラルタル=地中海の“関門”。
  • キーワード:港湾税・関税/植民地商品/保険と海運金融。

19世紀:蒸気と運河の短絡化

スエズ運河(1869)・パナマ運河(1914)で海域が直結。石炭補給港から石油バンカリング港へと優先港が入れ替わり、地峡や人工回廊の価値が跳ね上がる。

  • 回廊:スエズ地峡、パナマ地峡の人工短絡。
  • 港市:アデン、コロンボ、シンガポール、ポートサイド、コロン。
  • キーワード:蒸気船/炭鉱—海運連結/電信網。

20世紀:資源とチョークポイント

ホルムズ・マラッカ・バブ・エル・マンデブ・ボスポラス等の海峡が、エネルギーと穀物流の生命線に。港はコンテナ化で巨大化し、内陸へは鉄道・パイプライン回廊が延伸。

  • 海峡:タンカー・穀物船ルートの要衝。
  • インフラ:標準化されたコンテナ港湾/パイプライン・シベリア鉄道・北米内陸鉄道。
  • キーワード:エネルギー地政学/多国間運賃・保険。

現代:サプライチェーンの再編

内陸港(ドライポート)・経済回廊が台頭し、海峡・運河のリスクが価格へ即時波及。季節・気候・地政が航路選択に直結する時代へ。

  • 回廊:中欧—北海、東南アジア経済回廊、北米NAFTA回廊など。
  • 節点:内陸コンテナターミナル(ドライポート)が港湾と鉄道を直結。
  • キーワード:リスク分散/マルチルート化/季節運航(氷海・砂塵)。

まとめ:地理は「条件」ではなく「仕掛け」

世界史の転換は、地形・水系・海峡・回廊が織りなすネットワークの再配線で起きてきた。
どの期でも「線(route)」「点(node)」「面(delta/landform)」を見分けると、出来事の理由がクリアに。