都市の臨界:エアンナ核と「都市」指標

ー ウルクの都市革命|都市の臨界 ー

ウルク(Uruk/現ワルカ)の中心には、女神イナンナに捧げられたエアンナ区という神殿複合がありました。ここには大規模な公共建築・余剰の配給・記録の仕組みが同時に見られ、「都市」の条件が重なって現れます。本節では、その重なり=臨界を整理します。

30秒要点

  • 都市指標の重なり:公共建築(神殿群)+余剰の配給+記録(印章・原初文字)。
  • 場所:エアンナ区—ウルクの神殿中枢(イラク南部、メソポタミア)。
  • 時期:前4千年紀(概ね -4000〜-3200)。原初文字はウルクIVa〜IIIで本格化。
  • 意味:行政・宗教・物流が制度として接続され、都市圏の核が成立。

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レイヤー:03/04/05

初期表示レイヤー:01, 04, 05 / 版:v202501008

このセクションの個別ノート

本論と個別ノートの対応リスト

  • 1節(都市指標)→ 「エアンナ区の都市核(平面と層序)」
  • 1・3節(配給と記録)→ 「ビーベル縁鉢と配給モデル」
  • 3節(舟運インフラ)→ 「南メソポタミアの運河・湿地・舟運」
  • 4節(臨界と波及)→ 「ウルク拡張ネットワーク(スーサ/ハブバ/ゴディン)」

本論

1)「都市」指標をウルクで確認する

歴史学・考古学でよく使う都市指標は、①人口集中(規模の大きさ)②公共建築(神殿・広場など)③余剰の管理(配給・倉庫・標準化器)④記録(印章・封泥・原初文字)の4点です。ウルクでは、エアンナ区に巨大な神殿群や広場が集中し、配給を支えるビーベル縁鉢(BRB)の大量出土、さらに印章・封泥・原初文字を示す粘土板がまとまって見つかります。これらが「同じ時期・同じ場所」で重なる点が重要です。

封泥=袋や壺の結び目に付けた粘土に印章を押した“封の痕跡”。開けると壊れる仕組みで、署名と改ざん防止を兼ねた。

2)エアンナ区の空間と更新サイクル

エアンナ区では建物が層をなして何度も更新されます(例:コーン・モザイク装飾の建物群や石灰岩基壇の神殿)。この「更新サイクル」は、単発の施設ではなく継続的に運営された都市核であることを示します。祭祀と行政の機能が近接し、作業場・倉庫・広場が神殿経済(temple economy)の中で結びついていました。

3)都市核と背後の生産圏(hinterland)

エアンナの「核」は、背後の農耕地と運河・湿地の舟運ネットワークと結びついていました。穀物や家畜製品などの余剰は、標準化器(BRB)と記録(印章・原初文字)によって管理され、都市核に集中・再分配されます。都市の機能的な大きさは、城壁の大きさだけでなく、この物流圏の広がりで測るべきです。

4)指標の重なり=臨界

「公共建築」「配給」「記録」に加え、背後の舟運インフラが制度として連携したとき、都市はただの大きな村を超えて臨界に達します。ウルクのエアンナ区は、その瞬間を示す最初期の例であり、後続の都市文明の雛形となりました。

確度 A/B/C

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  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
  • エアンナ区=記録と公共建築の集中:A
  • BRB=配給モデルの中核:B
  • 舟運ネットワークの空間スケール推定:B

参考資料