ー ウルクの都市革命|都市の臨界 ー
前四千年紀(前4000〜前3200年)、イラク南部ウルク(現ワルカ)の神殿中枢エアンナ区では、女神イナンナの神殿複合を核に、公共建築群+余剰の配給+印章・原初文字による記録が同時に作動し、「都市」指標が重なって臨界に達した。本節は、この重なり(行政・宗教・物流の制度接続)を場所・時期・機能の対応で整理する。
本論
1)「都市」指標をウルクで確認する
歴史学・考古学でよく使う都市指標は、①人口集中(規模の大きさ)②公共建築(神殿・広場など)③余剰の管理(配給・倉庫・標準化器)④記録(印章・封泥・原初文字)の4点です。ウルクでは、エアンナ区に巨大な神殿群や広場が集中し、配給を支えるビーベル縁鉢(BRB)の大量出土、さらに印章・封泥・原初文字を示す粘土板がまとまって見つかります。これらが「同じ時期・同じ場所」で重なる点が重要です。
封泥=袋や壺の結び目に付けた粘土に印章を押した“封の痕跡”。開けると壊れる仕組みで、署名と改ざん防止を兼ねた。
2)エアンナ区の空間と更新サイクル
エアンナ区では建物が層をなして何度も更新されます(例:コーン・モザイク装飾の建物群や石灰岩基壇の神殿)。この「更新サイクル」は、単発の施設ではなく継続的に運営された都市核であることを示します。祭祀と行政の機能が近接し、作業場・倉庫・広場が神殿経済(temple economy)の中で結びついていました。
3)都市核と背後の生産圏(hinterland)
エアンナの「核」は、背後の農耕地と運河・湿地の舟運ネットワークと結びついていました。穀物や家畜製品などの余剰は、標準化器(BRB)と記録(印章・原初文字)によって管理され、都市核に集中・再分配されます。都市の機能的な大きさは、城壁の大きさだけでなく、この物流圏の広がりで測るべきです。
4)指標の重なり=臨界
「公共建築」「配給」「記録」に加え、背後の舟運インフラが制度として連携したとき、都市はただの大きな村を超えて臨界に達します。ウルクのエアンナ区は、その瞬間を示す最初期の例であり、後続の都市文明の雛形となりました。
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- C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
- エアンナ区=記録と公共建築の集中:A
- BRB=配給モデルの中核:B
- 舟運ネットワークの空間スケール推定:B
