ネアンデルタール交雑|時期・場所・比率の再整理

—出アフリカ|北ルートと西ユーラシア拡散(ネアンデルタール交雑を再整理)—

出アフリカ後、現生人類(Homo sapiens)は西ユーラシアの入口でネアンデルタールと接触・交雑した。本ノートはいつ(時期)・どこで(場所)・どの程度(比率)の3点を、~6万–4万年前のコア期に絞って俯瞰する。

※地域:主=南アジア、跨域=東欧(バルカン)/ カフカス / 西シベリア

30秒要点

  • 時期:主窓は概ね~60–50 ka。個体によって“直近交雑”痕跡も(例:Oase 1)。
  • 場所:レバント回廊カフカス周縁が有力候補。単一点の確定は時期尚早。
  • 比率:導入は数%規模。時間とともに希釈・選択で現代では低下。

対応マップ

このノートのピンは #711B42:レイヤーは03/04/05です

初期表示レイヤー:01, 03, 04, 05, 06 / 版:v20250926

本論

1) いつ?――交雑の時間幅

初期現生人の全ゲノム解析から、ネアンデルタール由来断片の長さで交雑の相対年代を逆算できる。Ust’-Ishim(西シベリア、~45 ka)は断片が長く、交雑から間がないことを示す。Oase 1(ルーマニア)は2〜4世代以内にネアンデルタール祖先がいたと推定される“直近”の事例。同時期のバチョ・キロ洞窟(ブルガリア、~45 ka・IUP層)はH. sapiens の直接証拠を含み、Ust’-Ishimと同世代帯に位置する交雑直後〜後続フェーズの拡散を示唆する。

2)どこで?――候補地の比較

レバント回廊(シナイ〜カルメル)は古くからの接触帯で、往還・再占拠が繰り返される地域。一方、カフカス南縁〜黒海南縁も北縁ルートの通路として検討価値が高い。気候の揺らぎにより環境窓が開いたタイミングで、接触機会が増えた可能性がある。

3)どの程度?――導入比率とその後

非アフリカ現代人のネアンデルタール由来割合は概ね1〜2%台だが、初期個体ではより高く・長い断片が観察される。これは導入後に希釈(混合)や自然選択、中立的な遺伝的漂変が作用した結果と解釈できる。

確度(A/B/C)

※このサイトでは、資料の信頼度(A / B / C)を簡単なラベルで示します。
詳しくは 凡例:、資料の信頼度(A / B / C)へ →

  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
  • 交雑の存在と概時(~60–50 ka):A(古代/現代ゲノムで強固)。
  • 候補地(レバント/カフカス):B(多領域の一次整合、確定点は未到)。
  • 初期導入がその後希釈:B(個体差・地域差あり)。

参考資料

  1. Green RE et al. 2010. A draft sequence of the Neandertal genome. Science.
  2. Fu Q et al. 2014. Genome sequence of a 45,000-year-old modern human from western Siberia (Ust’-Ishim). Nature.
  3. Fu Q et al. 2015. An early modern human from Romania with a recent Neanderthal ancestor (Oase 1). NaturePMCID)。
  4. Higham T et al. 2014. The timing and spatiotemporal patterning of Neanderthal disappearance. Nature.