オーリニャシアン拡散|西ユーラシア定着の文化フレーム

— 出アフリカ|オーリニャシアン拡散が描く西ユーラシア定着の文化フレーム —

オーリニャシアンは西ユーラシアで上部旧石器(UP)が本格化する段階を象徴する文化複合である。 本ノートは~45–30 kaを枠に、ドナウ回廊から中欧・西欧へ至る拡散経路と時間幅、および 象徴行動(装飾・骨角器・洞窟壁画)の中核を俯瞰する。

30秒要点

  • 経路:東欧→ドナウ回廊→中欧(スウェービアン・ジュラ)→西欧(ピレネー〜ローヌ)へ段階拡散。
  • 技術:ブレードレットと骨角器、接着・合成ハフティングの発達。
  • 象徴:造形(女性像)・骨製笛・洞窟壁画(ショーヴェ)など象徴資料の厚み。
  • 時間幅:地域差を含み~43/42–33/30 kaのレンジで展開(再占拠を含む)。

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このノートのピンは #FBD74A:レイヤーは03/04/05です

初期表示レイヤー:01, 03, 04, 05, 06 / 版:v20250926

本論

1)拡散の骨格:回廊と節点

東からの到達はドナウ回廊(鉄門峡谷)で受け止められ、中欧のスウェービアン・ジュラ(アルプス北縁)を核に 西方へ広がった。さらにピレネー東端〜ラングドックを抜けてイベリア北縁へ到達する。 これらの節点は河川回廊×山地縁という地形セットに沿っている。

2)文化の中核:技術と象徴

オーリニャシアンはブレードレットと骨角器の体系化、接着・合成ハフティングの発達を特徴とし、 スウェービアン・ジュラのホーレ・フェルスガイセンキュルステレからは 女性像や骨製笛など厚い象徴資料が知られる。フランスのショーヴェ洞窟の壁画も同時期の象徴行動の代表例である。

3)年代・広がり:レンジで捉える

炭素14の再較正・最小年代化により、初期層は~43/42 kaまで遡る地点がある一方、地域により33〜30 kaまで持続する。 拡散は単一波ではなく、往還・再占拠を含む段階拡大として把握すると齟齬が少ない。

確度(A/B/C)

※このサイトでは、資料の信頼度(A / B / C)を簡単なラベルで示します。
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  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
  • オーリニャシアンの広域展開(西ユーラシア):A。
  • 早期化(~43/42 ka)と持続(〜33/30 ka)という時間幅:B(地域差・較正依存)。
  • 拡散の細経路(単一路 vs 複経路・再占拠):B(複数一次整合だが、単一点特定は不可)。

参考資料

  1. Higham, T. et al. (2012). Testing models for the beginnings of the Aurignacian at Geissenklösterle. PNAS. doi:10.1073/pnas.1207656110
  2. Conard, N. J. (2009). A female figurine from the Aurignacian of Hohle Fels. Nature. doi:10.1038/nature07995
  3. Conard, N. J., Malina, M., & Münzel, S. C. (2009). New flutes document the earliest musical tradition in SW Germany. Nature. doi:10.1038/nature08169
  4. White, R. et al. (2012). Context of early Aurignacian art at Abri Castanet. PNAS. doi:10.1073/pnas.1118593109