ウスチ=イシム個体|ゲノムが示す交雑年代

— 出アフリカ|ウスチ=イシム個体が示す“交雑はいつ起きたか” —

西シベリアのウスチ=イシム個体(~45 ka)の全ゲノムは、ネアンデルタール由来DNA断片の長さから 交雑の相対年代を逆算できることを示した基準データである。結果は、出アフリカ直後の~60–50 kaに主な交雑窓があるという解釈と整合する。

30秒要点

  • 方法:ネアンデルタール由来断片の長さ分布(再結合で短くなる)から交雑の経過時間を推定。
  • 結果:ウスチ=イシムは断片が長い=交雑から間がない世代帯(個体の生存より数千年〜1万年弱前)。
  • 含意:主な交雑は出アフリカ直後、レバント〜近傍などの接触帯が候補。
  • 注意:年代は突然変異率・再結合地図・世代年数に依存。場所の単一点特定は不可。

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このノートのピンは #E65233:レイヤーは03/05です

初期表示レイヤー:01, 03, 04, 05, 06 / 版:v20250926

本論

1)なぜ「断片の長さ」で年代がわかる?

異種(ネアンデルタール)との交雑で導入されたDNAは、子孫世代で組み換えにより細切れになっていく。 したがって、導入直後の個体ほど長い断片を多く持ち、時間が経つほど短くなる。 この長さ分布をモデル化すれば、交雑からの経過時間を逆算できる。

2)ウスチ=イシムが示す時間窓

ウスチ=イシムの由来断片は現代人より長く、またOase 1のような“直近世代”ほど極端には長くない。 これらは総合して、交雑が~60–50 ka(個体の年代より数千年〜1万年弱前)に起きたことと整合する。 多くの現代人が共有する~2%前後の由来比とも大枠で一致する。

3)どこで?――場所の推定

人口動態モデルと広域の考古資料を合わせると、交雑の主窓はレバント〜その周辺(もしくはカフカス回廊近傍)など、 出アフリカ直後に行き交いが生じやすい接触帯が候補となる。ただし、ウスチ=イシム自身は西シベリアに居た時点の個体であり、 交雑の場所そのものを単一点に限定する根拠にはならない。

確度(A/B/C)

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  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
  • 断片長からの交雑“相対年代”推定:A(複数研究で再現)。
  • 主な交雑窓が~60–50 kaに位置:B(複数一次の整合、手法差の幅あり)。
  • 交雑“場所”の特定:C(広域候補帯止まり)。

参考資料