東アジアへの定着(~45–35ka)が前史となり、氷期の「ベーリンジア」での滞留をはさんで、海沿い先行→内陸後続という二段構えでアメリカ大陸へ広がった、というのが現在の有力な見取り図です。
30秒要点
- 東アジア定着:~45–35kaに北東アジアまで広がる(代表:天洋洞の古代DNA)。
- ベーリンジア滞留:氷期にアラスカ〜極東シベリアの中継地で人口が小さくまとまる(ボトルネック)。
- アメリカ到達:沿岸回廊は~16kaまでに利用可能、内陸回廊は~13ka以降に生態学的に通行可能。
本論
1)東アジアへの広がり(~45–35ka)
現生人類はこの時期に北東アジアへ到達。中国・北京近郊の天洋洞(~40ka)から得られた古代DNAは、今日の多くの東アジア人やアメリカ先住民とつながる集団の存在を示します。ここでのポイントは「この段階で東アジアの基盤ができていた」という事実です。
2)ベーリンジアという“足止め地”
最終氷期には、アラスカとシベリアの間に広い陸地(ベーリンジア)が現れます。寒冷期には移動が難しくなり、ここで人々がしばらく暮らした(人口が小さく保たれた)と考えられています。古代ゲノム研究では「古い分岐を示すアラスカの個体」が見つかり、滞留モデルを後押ししています。
3)アメリカ到達:沿岸回廊と内陸回廊
沿岸回廊(Pacific Coastal Route)は、海藻帯や沿岸資源を活かしながら島伝い・岬伝いに南下する道です。~16kaまでに環境的に利用可能になったと考えられ、南米の前-クロヴィス層(例:モンテ・ヴェルデ ~14.5ka)は、この「沿岸先行」と整合します。
一方、内陸回廊(Ice-Free Corridor)は、巨大氷床(ローレンタイド氷床とコーディレラ氷床)の間が開いた“内陸の道”。植物・動物が戻って人が移動できるようになるのは~13ka以降と推定され、これはクロヴィス文化の時期と合います。
まとめると、沿岸が先行し、のちに内陸が加わった二相モデルが自然です。
根拠と限界
- 根拠(強い):古代ゲノム(アラスカ・アジアの個体)、沿岸遺跡の年代、内陸回廊の環境復元(生物が戻る時期)。
- 限界(注意):沿岸遺跡は海面上昇で失われやすい(保存バイアス)。年代は“幅”で示すのが安全。
- 用語のポイント:「滞留」は“氷期で足止めされた中継地”という比喩で捉えると理解しやすい。
確度(A/B/C)
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- C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
- 東アジア定着 ~45–35ka: A(古人骨+古代DNAが直接示す)
- ベーリンジア滞留: B(複数の古代ゲノムで整合。ただし時期幅にレンジ)
- 沿岸先行+内陸後続: B(沿岸の保存バイアスに留意しつつ、考古年代と環境復元が合う)
対応マップ
本稿は G1/G2/G3を扱います。
G2/G3期|アメリカ到達
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G1期|東アジア定着
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アイスフリー回廊:可用化の閾値とクロヴィス期 旧石器 アメリカ
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参考資料
- Moreno-Mayar et al. 2018, Nature — アラスカ終末更新世ゲノム(Native American 祖集団の一系統)=ベーリンジア滞留/分岐の基礎文献。
- Moreno-Mayar et al. 2018, Science — 北〜南米の古ゲノム15体でアメリカ到達と拡散を再構成
- Fu et al. 2013, PNAS(Tianyuan 古人骨のDNA)— 東アジア定着(~40ka)の主要根拠
- Pedersen et al. 2016, Nature — アイスフリー回廊の生物学的可用化の下限(~13ka前後)を環境DNAで検討
- Dillehay et al. 2008, Science(Monte Verde)— 太平洋沿岸適応(海藻利用など)の直接証拠=沿岸回廊仮説の重要根拠