ベーリンジア滞留:古ゲノムと環境“窓”の再構成

—出アフリカ|東アジア定着とアメリカ到達(ベーリンジアで人々が足止めされた)—

氷期にはアラスカと東シベリアの間に広い陸地(ベーリンジア)が現れ、ここで人々がしばらく暮らした(滞留)と考えられます。古代DNAは、アメリカ先住民の祖先がこの地域で小さな集団にまとまり、のちの拡散につながる分岐を示すことを後押ししています。

※本稿は便宜上アメリカに分類していますが、 ベーリンジアは シベリア—アラスカの跨域です。

30秒要点

  • 時期:おおよそ ~26–13ka(G2–G3)。最寒冷期(LGM)前後に小集団化=ボトルネックがあった。
  • 根拠:古代ゲノム(アラスカの終末更新世個体を含む)と、氷床縁・植生回復などの環境復元が整合。
  • 意味:退氷で沿岸回廊(~16ka〜)→内陸回廊(~13ka〜)が使えると、北米〜南米へ急速に拡散した。

対応マップ

本稿の対応時期は G2–G3 ですが、ページの負荷を避けるため G3 の地図を埋め込み表示しています。G2相当も含みます。

このノートのピンは #1A237E:レイヤーは01/04です

初期表示レイヤー:01, 03, 04, 05 / 版:v20250928

本論

1)「滞留」とは何か

道が閉じる時期(氷床拡大・気候悪化)には長距離移動が難しくなり、集団が1つの広域地域にまとまることがあります。ベーリンジアはそのような「中継地」で、狩猟・採集が可能なツンドラ〜草原の資源を持っていました。

2)古代DNAが示す分岐とボトルネック

終末更新世のアラスカ古ゲノムは、アメリカ先住民祖集団の早い分岐と小さな有効人口(ボトルネック)を示します。これは「ベーリンジアでの滞留」と時間軸が合います。

3)環境の“窓”と拡散の再開

退氷が進むと、アナディル低地(東側)とユーコン川河口(西側)をハブに、沿岸回廊(~16ka〜)と内陸回廊(~13ka〜)が段階的に有効になります。滞留していた集団が複数の道で南下し、各地へ広がったと考えるのが自然です。

内陸側では、タナナ谷の Swan Point(~14–13ka)などに人の活動が見られ、内陸回廊の生態学的可用化(~13ka〜)と整合します。

根拠と限界

  • 根拠:古代ゲノムの系統関係/氷床縁と海面低下・植生回復などの古環境データの整合。
  • 限界:沿岸域の遺跡は海面上昇で失われやすい(保存バイアス)。年代は幅(レンジ)で扱うのが安全。
  • 補足:「滞留=動きが止まった」ではなく、広い地域内での移動は続いた可能性が高い。

確度(A/B/C)

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  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
  • ボトルネックと早期分岐(祖集団):B(複数の古代ゲノム研究が整合)
  • 時期レンジ(~26–13ka):B(環境復元・考古と合うが地域差あり)
  • 拡散ルートの二相(沿岸→内陸):B(可用化の時期が合う/沿岸は保存バイアスに注意)

参考資料