太平洋沿岸回廊:ケルプ・ハイウェイと保存バイアス

—出アフリカ|東アジア定着とアメリカ到達(太平洋沿岸回廊)—

太平洋沿岸回廊は、氷期末に海沿いの資源帯(ケルプ林や河口・干潟)を活かして南下した「道」です。~18–13kaのあいだに利用可能性が高まり、沿岸先行→内陸後続という二段構えの前半を担ったと考えられます。ただし初期沿岸遺跡は海没しやすく、証拠が欠けがちです。

※ケルプ林は、寒い海の沿岸にできる“海の森”。獲物と食材が豊富で、氷期末の海沿い移動を支えた可能性がある帯状の生態系です。

30秒要点

  • 資源帯の強み:ケルプ林(海藻)に支えられた沿岸生態系は、貝・魚・海獣・海鳥・海藻が豊富=連続する“食の回廊”。
  • 時期レンジ:退氷で氷床縁が後退し、~18–16kaに北太平洋沿岸が通りやすく、~16–13kaに本格化。
  • 保存バイアス:最古の海辺は今は海の下。沿岸の初期証拠は見つかりにくい。

対応マップ

本稿の対応時期は G2–G3 ですが、ページの負荷を避けるため G3 の地図を埋め込み表示しています。G2相当も含みます。

このノートのピンは #16589B:レイヤーは01/03/04です

初期表示レイヤー:01, 03, 04, 05 / 版:v20250928

本論

1)ケルプ・ハイウェイ仮説とは

北太平洋沿岸(日本〜千島〜ベーリング〜アラスカ〜北米西岸)には、ケルプ林を核とする豊かな沿岸生態系が帯状に連なります。考古と海洋生態の統合から、「海沿いに資源の島伝い」で移動できた可能性が提案されています。

2)どんな証拠がある?

  • 南米・モンテ・ヴェルデ(~14.5ka):海藻利用の直接証拠。沿岸適応が早いことと整合。
  • 北米西岸・チャネル諸島(~12.2–11.2ka):海鳥・魚・海獣利用、舟・沿岸テクノロジーの痕跡が集中。
  • 海没の問題:沿岸の旧汀線は現在では水深数十mに沈み、「見つかりにくい」こと自体が重要な事情。

いつ通れたの?(利用可能性のタイミング)

氷床の後退や海面変化で、北太平洋沿岸の氷・岩・氷河前面が後退。~18–16kaに北部で窓が開きはじめ、~16–13kaに沿岸移動の本格化が見込まれます(内陸回廊の生態学的可用化は~13ka以降)。

根拠と限界

  • 根拠:沿岸の考古記録(モンテ・ヴェルデ、チャネル諸島)、海洋生態と地形の整合、海面変動と旧汀線の再構成。
  • 限界:保存バイアス(海没・侵食)により、最古段階の遺跡は少ない。年代はレンジで把握。
  • 補足:「沿岸先行」は内陸を否定する意味ではない。時期差(沿岸が先、内陸が後)がポイント。

確度(A/B/C)

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  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
  • 沿岸資源帯(ケルプ林)の連続性と有利性:B(海洋生態・地形の一次研究で整合)
  • ~16–13kaに沿岸移動が本格化:B(退氷・旧汀線復元と考古年代が合う)
  • 保存バイアス(海没による欠測):A(海面上昇と沿岸考古の総説で確立)

参考資料