アイスフリー回廊:可用化の閾値とクロヴィス期

—出アフリカ|東アジア定着とアメリカ到達(アイスフリー回廊)—

アイスフリー回廊(IFC)は、ロッキー山脈東側でローレンタイド氷床とコーディレラ氷床のあいだにできた内陸の道です。氷が退いた直後は寒く資源が乏しく、人が移動するには早すぎました。植物・動物が戻り、生態学的に通れる(可用化)のは終末更新世の後半(~13.5–12ka)です。

30秒要点

  • 物理的開口 ≠ 可用化:氷が割れて道が見えても、食料や薪が戻るまで人には厳しい。
  • 時期:~13.5–12kaに植生・動物が回復(可用化)。
  • クロヴィス期との関係:~13.05–12.75kaのクロヴィスは、IFC後半の可用期と重なる。
  • 沿岸との役割分担:より早い~16–14.5kaの南方到達(例:モンテ・ヴェルデ)は、沿岸ルートの方が説明しやすい。

対応マップ

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初期表示レイヤー:01, 03, 04, 05 / 版:v20250928

本論

1)「可用化の閾値」とは

人が長距離移動できるには、①歩ける地形に加え、②食料・燃料・獣道など生態学的資源が必要です。アイスフリー回廊(IFC)では、氷が割れた後もしばらくは氷河性の砂礫・氷湖が多く、植物→草食動物→狩猟資源の順に段階的に回復しました。

実際の地名で言えば、北側の Peace River 低地から南側の Athabasca 谷へ抜ける谷筋が、氷床間の“通り道”として想定されます。本文の地図では、この通り道が通る範囲を「アイスフリー回廊帯(IFC帯)」として示しています。

2)何でわかるの?(古DNAと古環境)

カナダ西部の湖沼堆積物から得られた植物・動物の古DNA(eDNA)と花粉・地形復元により、~13.5–12kaの間にハイマツやバッファローベリー(人の食糧にもなる)が入り、ビソンなど大型動物が通行できる環境が整ったことが示されます。

これらの指標(古DNA・花粉)は、Peace River 低地〜Athabasca 谷に沿うラインでの植生回復 → 大型動物(ビソン等)通行 → 人の往来という順序と整合します。

3)クロヴィス期との重なり

クロヴィス文化の年代は、放射性炭素を補正した値で約 13,050〜12,750 年前(cal BP)、西暦に直すとおよそ紀元前 11,100〜10,800 年です。ちょうどアイスフリー回廊(IFC)が“生態学的に通れるようになってきた時期”と重なります。だから、クロヴィス期の一部の移動や北上・往来はIFCで説明できると考えられます。
いっぽう、約 14,500 年前に南米で確認されるモンテ・ヴェルデのような「もっと早い到達」は、IFCだけでは説明しにくく、海沿いの“沿岸回廊”が関わったと見るのが自然です。

根拠と限界

  • 根拠:IFC域の古DNA・花粉が示す植生回復、ビソン古DNAの回廊通行の時系列、クロヴィス年代との整合。
  • 限界:IFCの局所差(谷ごとに回復速度が違う)、考古遺跡の少なさ。沿岸早期遺跡は海没バイアスで比較が難しい。
  • 補足:IFCは初到達の必須ルートではなく、終末更新世後半の往来・拡散に重要だったとみるのが妥当。

確度(A/B/C)

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  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
  • IFCの生態学的可用化が~13.5–12kaに進行:B(古DNA・花粉・地形の複数一次研究が整合)
  • クロヴィス年代(~13,050–12,750 cal BP):A(多数遺跡の較正年代で確立)
  • 初到達は沿岸先行、IFCは後続:B(IFC可用期と前-クロヴィス証拠の時差が一致)

参考資料