和親は何をもたらす?(停戦・緩衝)

ー 【特集】秦から漢へ「原シルクロード」|国境はどう回廊になった? ー

和親(わしん)は、皇室の婚姻と贈与・互市(国境市場)をセットにして、国境の緊張をいったん下げるための外交の取り決めです。ねらいは「戦わずに時間を買う」こと。本稿は主に〈漢—匈奴〉の和親を扱います。河西では、この“猶予”のあいだに四郡の拠点化と玉門関(Yumenguan)・陽関(Yangguan)の運用が整い、のちに「河西幹線(武威→張掖→酒泉→敦煌)」で結ばれる“通れる帯=回廊”へつながっていきました。

何を取り決めた?(仕組み)

  • 婚姻:皇室女性を相手方へ輿入れし、同盟関係を可視化。
  • 贈与(歳賜):定期的な物資を供給して関係維持。
  • 互市:国境に公式市場を開き、交易の“合法ルート”を用意。
  • 称号・書簡:立場を確認し、交渉窓口を固定して紛争を局所化。

何が得られた?(効用)

  • 停戦・緩衝:越境襲撃の頻度が下がり、辺境の生活と物流が安定。
  • コスト削減:大規模戦を避け、郡治・道路・倉庫など内政に資源を回せる。
  • 情報と予見可能性:使節・書簡で相手の動向を把握しやすくなる。
  • 回廊の下地:四郡の常設運用や玉門関/陽関のゲート管理が安定し、幹線運用の土台に。

どこに弱点がある?(限界)

  • 抑止の限界:完全な侵入防止にはならず、小競り合いは残る。
  • 維持コスト:贈与や市場運営の負担が重く、国内の不満につながることも。
  • 政治リスク:相手の王位継承や方針転換で、合意が崩れやすい。

対象と他例

  • 主眼:漢—匈奴。前2〜1世紀に更新を重ね、停戦と緩衝の枠組みとして機能。
  • 補助例:烏孫 ほか。婚姻同盟を通じ、西域勢力との関係調整にも用いられた。

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  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
  • A:和親=婚姻+贈与+互市などを含む外交枠組みであったこと(制度の定義)。
  • A:〈漢—匈奴〉での和親運用が史料に記録され、烏孫など他例も確認できること。
  • B:和親が「回廊化(帯としての国境)」を準備・後押ししたという機能的な解釈。
  • B:玉門関・陽関と四郡の整備が、和親の猶予により進んだという因果の強さ(地域・時期で差)。
  • C:互市や贈与の量的効果(交易量や軍事出動のどれだけ削減したかの正確値)。