三国史記|高麗官修の朝鮮最古の本格正史

高麗の仁宗期に金富軾が編纂した、三国(新羅・高句麗・百済)から統一新羅期までを記す全50巻の官修史。本文は漢文で、本紀・年表・志・列伝を備える“正史”体裁。地名・制度などの整理に強みがある。

基本情報

対象年代おおむね前57年(新羅建国)〜935年(新羅滅亡)を主射程とする(冒頭部の創業伝承は「伝説期」を含む)。
成立時期1145年(高麗・仁宗期)に完成。高麗王の勅命により館閣の史官チームが官修。本文は漢文(古典漢語)で記される。
編者金富軾(キム・ブシク, 1075–1151)を中心とする編纂。中国正史・通史(『三国志』『晋書』『旧唐書』『新唐書』『資治通鑑』等)や失われた朝鮮古史の引用を渉猟し、官修正史として整えた。

体裁・構成

本紀28巻新羅本紀12巻・高句麗本紀10巻・百済本紀6巻。王年代を中心に叙述。
年表3巻三国・周辺の年代を一覧化。
志9巻礼・楽・車服・地理・官制など“制度面”の総論(地名・制度の基礎参照に有用)。
列伝10巻人物伝(将帥・学者・勇士等)。金庾信・乙支文徳・張保皐ほか。

該当巻の例

『三国史記』高句麗本紀(東川王条)/『三国志』魏書「東夷伝・高句麗」

244年、魏の遠征で丸都城が陥落、高句麗の東川王は東方へ退避。国力は一時的に後退、体制再建を開始。東部動員と拠点整理で持久の態勢を整える。

⤴︎ 東川王(とうせんおう)

主な注釈

  • [近現代]『역주 삼국사기』(韓国学中央研究院・全5):原文校勘+詳細訳注+索引の基準書。
  • [近現代]平凡社・東洋文庫『三国史記』(井上秀雄・全4):日本語の定評ある訳注。本文理解の一次入口。

よくある誤解と注意

  • 「一国中心」ではない → 新羅・高句麗・百済の三本紀を併立させ、各国を自国年号で記す点が特徴。
  • 地名は時代で変わる → 志・地理志では新羅期の改称に基づく統一表記が多く、旧称との対応に注意。
  • 一次史料の偏り → 中国正史・通史依拠が濃い。

参考資料