人はどこから来て、どう広がったのか?――そのヒントの一つが、ミトコンドリアDNA(mtDNA)とY染色体、そしてハプログループです。 ここでは入門に必要な最低限を、誤解しやすいポイントと一緒に整理します。
30秒で要点
- mtDNA=母から子へ(男女どちらにも)ほぼそのまま伝わる。
- Y染色体=父から息子へ伝わる(男性のみ)。
- ハプログループ=変異(マーカー)で分けた「親戚の枝」。地理と時代の手がかり。
- 注意:どちらも直系(母の母…/父の父…)だけの細い線。あなたの全ルーツすべてを語るものではない。
ミトコンドリアDNA(mtDNA)とは?
細胞の中でエネルギーを作る「ミトコンドリア」が持つDNA。卵子由来のため、母→子に伝わります。 mtDNAはサイズが小さく(約1.6万塩基)、変異が少しずつ蓄積するので、家系の枝分かれ(系統)をたどるのに向いています。
例:アフリカ起源の大きな枝「L」から、アフリカ外へ広がる「M」「N」などが分岐。
Y染色体とは?
男性がもつ性染色体の一つ(XYのY)。父→息子へ受け継がれ、やはり小さな変異の積み重ねで枝分かれを追跡できます。 系統名はアルファベット(A/B/C…)とマーカー番号の組み合わせで表されます。
例:アフリカ外の多くで見られる系統に「C」「D」「F→K→R/Q」などがある(細部は地域で大きく異なる)。
ハプログループってなに?
mtDNAやY染色体に見つかる特定の変異(マーカー)を基準に、人々を系統樹の枝としてグループ分けしたもの。 地理(どこに多いか)や時間(いつ分岐したか)の推定に役立ちます。
mtDNA例:L →(アフリカ内)…/M・N →(アフリカ外へ拡散の主要枝)
Y例:A/B(アフリカ深い分岐)→ C/D/F…(各地で多様に分岐)
よくある誤解とチェック
- 「mtDNA(母系)やY染色体(父系)だけで“私のルーツ全部”がわかる」 → ×。 直系の一本線のみ。大半の祖先情報は常染色体(両親から半分ずつ)に表れる。
- 「系統名が同じ=同じ民族・国籍」 → ×。 遺伝系統と民族・言語・国籍は一致しない。歴史的混合と移動でズレる。
- 「分岐年代は1つの確定値」 → ×。 変異率モデルや標本で幅(不確かさ)が出る。新研究で更新されうる。
- 「mtDNAのM/N、YのC/D/F…は“起源の優劣”を示す」 → ×。 ただの枝名。分岐順や地理分布を示す目印にすぎない。
- 「遺伝だけ見れば拡散ルートが決まる」 → ×。 考古(遺跡年代・技術)や古気候(環境窓)と統合解釈してはじめて筋道が立つ。
出アフリカ(G1–G3)とどう関係する?
大きな枝(例:mtDNAのM・N、Yの一部系統)がアフリカ外への拡散と対応し、地域ごとの分岐の順番や拡散ルートの仮説検証に役立ちます。 ただし、考古学(遺跡年代・技術)や古気候(環境窓)と組み合わせて解釈するのが鉄則です。
用語ミニ
ミトコンドリアDNA(mtDNA) | 母系で伝わるDNA。変異の積み重ねで母方の系統を追跡。 |
Y染色体 | 父系で伝わる染色体。男性の直系(父→息子)を追跡。 |
ハプログループ | 特定の変異をもつ人々の系統グループ。系統樹の枝に相当。 |