日本書紀|日付と紀年の読み方(干支・暦・相対年代)

3行まとめ

  • 『日本書紀』は編年体だが、西暦にピタッと合わない箇所が多い(干支・旧暦・編纂意図)。
  • 読む順番:①年(干支)で年代帯候補→ ②月日(旧暦)で絞る → ③外部史料+天文現象で固定点に合わせて最後に西暦へ。
  • 初期天皇期はズレが大きめ。西暦は目安(確度NS-3:伝承中心)として幅をもたせる。

読み方の手順(基本フロー)

  1. 年(干支)で候補年を取得(60年サイクルなので複数候補が出る)
  2. 月日(旧暦)で候補を絞る(閏月・年始ズレ=1〜2月は前年化しうる)
  3. 外部史料・天文現象で固定点に合わせる(白村江・日食など)
  4. 最後に西暦へ落とす(±数年の幅はそのまま幅表記)

年(干支)の読み方

『日本書紀』は記事冒頭に太歳+干支(例:太歳庚辰たいさい こうしん)を掲げます。

※太歳=その年の干支の前置き語です。

干支(かんし)とは

  • 十干(甲乙丙丁戊己庚辛壬癸)× 十二支(子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥)=60年周期の年名。
  • 歴史上の事件名:乙巳の変=645、壬申の乱=672(照合の軸)。
  • 旧暦は年替わりが立春前後1〜2月の記事は西暦換算で前年に落ちる場合がある。

※ 日の干支もあるが、まずは年の干支を押さえればOK。

月日の読み方(暦:元嘉暦と儀鳳暦)

『日本書紀』の月日は旧暦。編纂時の換算や使用暦の違いを踏まえると精度が変わります。

旧暦って?

日本古代で使われた太陰太陽暦。新月=1日で月が始まり、29/30日で1か月。季節とのズレは閏(うるう)月(同名の月をもう一度入れる)で調整。年替わりは立春前後(旧正月)なので、書紀の「正月」≠現代の1月になることがある。

  • 太陰太陽暦:月の満ち欠け(朔望)で月を数え、太陽の季節運行に合わせて閏月で調整。
  • 大小月:各月は29日(小)/30日(大)の揺れがある。
  • 年始のズレ:年の区切りは立春前後。1〜2月の記事は西暦換算で前年化することがある。
使用暦の違い
暦名日本での使用期(めやす)性格『書紀』での扱い(一般的整理)
元嘉暦飛鳥前期〜中期
推古期(604頃)導入とされる
南朝宋の暦法。
天文記録と整合が取りやすい
6〜7世紀記事は元嘉暦相当で整合しやすい
儀鳳暦天智期(664)以降唐の新暦。
編纂時点(720)に近い暦
初期記事は儀鳳暦での逆算が混ざるとされ、日付は目安

よく用いられる区切り:安康天皇の即位(便宜上454年)あたりを境に、儀鳳→元嘉の扱いが変わるとする説明もあります(学説あり/厳密には議論がある)。

暦で気をつける点

  • 閏(うるう)月:同じ年に同名の月が2回出ることがある(例:閏三月)。
  • 大小月:各月の日数が29・30で揺れるため、現代の「○月×日」と一対一にならないことがある。
  • 年始のズレ:書紀の「正月」が西暦の1月とは限らない。

相対年代の照合(外部史料・天文と突き合わせ)

相対年代とは、出来事どうしの前後関係を他資料で固定点に結び付けて固める読み方です。

ミニ例:壬申の乱の位置づけ

  1. 年の干支=壬申 → 候補年は…612/672/732…
  2. 前後の固定点:白村江(663)の後、庚午年籍(670)の後に内乱 → 候補は672に収束。
  3. 天文・他史料の符合も確認 → 西暦672年で確定。

※ こうした固定点のはさみ撃ちで年代帯を狭めていく。

使う資料

  • 中国正史:『三国志』魏書東夷伝/『宋書』倭国伝/『隋書』倭国伝/『旧唐書』『新唐書』日本伝
  • 『三国史記』(百済本紀・新羅本紀 ほか)
  • 金石文:稲荷山鉄剣銘・江田船山鉄刀銘・七支刀銘 など
  • 天文記録:日食・月食・彗星・新星記事 ほか

便利な固定点(例)

  • 607 遣隋使
  • 645 乙巳の変
  • 660 百済滅亡
  • 663 白村江
  • 670 庚午年籍
  • 672 壬申の乱

ズレたときのチェックリスト

  • 旧暦の年替わり:1〜2月は前年に繰り下げて西暦換算されるか?
  • 編纂意図:政治的配慮・物語的圧縮・異伝の選択が影響していないか?
  • 幅表記:±数年の不確かさは幅を保ったまま提示(断定しない)。

よくある落とし穴

  • 改元・重祚での年ずれ:皇極→孝徳、皇極→斉明(重祚)などで計算が狂いがち。
  • 称制と即位の混同:天智は661–668(称制)/668–671(即位)で分けて扱う。
  • 後世用語の前倒し:「摂政」「日本国号」など、用語の成立時期に注意(当時の語と後世の整理を区別)。

結論(扱いの指針)

  • 古代前半(神話〜古墳):相対が主。世紀スパンを基本に、外部史料・考古で補強。
  • 飛鳥まで:在位=通説フレーム/出来事=絶対アンカーで固定(= 相対+絶対のハイブリッド)。
  • 奈良以降:同時代記録・詔・銘文が増え、絶対年の精度が上がるため、相対は補助的。

用語ミニ辞書

太歳その年の干支を指す語。書紀の年頭見出しに付く。
干支十干×十二支の組み合わせ。60年で一巡。
元嘉暦/儀鳳暦中国由来の暦法。日本では飛鳥期に元嘉暦が用いられ、天智期に儀鳳暦へ更新(一般的説明/学説あり)。
旧暦(太陰太陽暦)月の満ち欠けで月を進め、季節のズレは閏月で補正する暦法。
年替わりは立春前後。
閏月同じ月名がもう一度入る追加の1か月(例:閏三月うるうさんがつ)。
大小月各月の日数が29/30で変動すること。
相対年代出来事同士の前後関係を別史料の固定点で固める読み方。