『古事記』『日本書紀』は、皇室の系譜と伝承(帝紀・旧辞)などを土台に、8世紀に朝廷主導で編纂された日本最古の歴史書です。『古事記』はやまとことば的な表現と説話・系譜を重視し、『日本書紀』は漢文・編年体(年代順)で国家の正史(六国史の第一)に位置づけられます。
3行まとめ
- 『古事記』『日本書紀』は、帝紀・旧辞などの伝承と系譜をもとに、8世紀に編まれた日本最古の歴史書。
- 固有名詞(人・地名)と系譜は比較的頼りになるが、年数・出来事の順序・エピソードは揺れやすい。
- 『古事記』は物語と系譜、『日本書紀』は年代・外交・制度+諸説併記(異伝)が特徴。
帝紀・旧辞(ていき・くじ)とは
- 帝紀:皇統譜などの文書系の記録だったと見られる。
- 旧辞:伝承・物語を中心とした口承寄りの素材と解される。
- 現存しない(断片的言及のみ)。帝紀と旧辞は混在していた可能性もある。
どこが信頼しやすい/揺れやすい?
信頼しやすい(相対的)
- 固有名詞(人名・地名)
- 親子関係(系譜)(※政治的整理が入りやすい点に注意)
- 地名は時代で指す範囲が変動しうる
- 人名は読み(音)が本体で、漢字は当て字の場合がある
揺れやすい(相対的)
- 年数(寿命・在位年)
- 出来事の順序
- エピソード(説話や誇張表現を含みうる)
古事記と日本書紀の比較(ざっくり対応)
古事記 | 日本書紀 |
天地のはじまり〜第33代・推古 | 神代〜第41代・持統10年(696年) |
712年(和銅5) | 720年(養老4) |
全3巻(上・中・下) | 全30巻+系図1巻(系図は現存せず) |
やまとことば要素/説話・系譜中心 | 漢文/編年体(年代順) |
物語性濃い/歌謡・地名説話が多い | 年代・外交・制度が多い/本文の後に諸説併記(一書曰・或曰・一云) |
年次の明示は少なめ | 干支で年・日付を明記することが多い |
相対的に少ない | 中国正史・『三国史記』・金石文・天文記録などと照合しやすい |
神話=象徴・祭祀・地名を手がかりに読む | 年代・外交・制度を軸に、相対年代の照合を意識 |
よくある質問(FAQ)
- Q1. 『日本書紀』『古事記』はゼロからの創作?
いいえ。帝紀・旧辞など既存の系譜・伝承を土台に編纂されています。 - Q2. 帝紀・旧辞は文字?
現存しません。帝紀は文書系、旧辞は口承寄りと推測され、両者の混在の可能性もあります。 - Q3. どこが信頼しやすい?
固有名詞(人名・地名)や親子関係(系譜)は比較的安定。ただし、地名の範囲変動や系譜の政治的整理、人名の表記(漢字は当て字)に注意。 - Q4. どこが揺れやすい?
年数(寿命・在位年)、出来事の順序、エピソードは揺れやすく、複数伝承が併存します。 - Q5. どちらから読む?
全体像を掴むなら『日本書紀』、物語の魅力や系譜を味わうなら『古事記』から。 - Q6. 神話と歴史の線引きは?
神話段は象徴・祭祀・地名を手がかり(確度はNS-4神話層〜NS-3伝承中心)。歴史段は年代・外交・制度を外部史料と相対年代で照合(確度はNS-2照合可〜NS-1実録寄り)
異伝(諸説併記)の読み方
『日本書紀』では本文(本記)の後に、「一書曰」「或曰」「一云」などの形で異なる伝承(異伝)を併記します。これは、相互に矛盾する伝承を保存しつつ、政治・宗教上の配慮を行い、国史としての体裁を整えるためと理解できます。そのため、系譜やエピソードの登場人物が異なる場合があります。読み解く際は、どの異伝がどの勢力・地域の記憶に近いかを意識すると整理しやすくなります。