ー日本列島への到来|氷期末のルート(マイクロブレードの拡散)ー
マイクロブレードは、東北アジアで~28–20 kaに広がり、北海道ではLGM(最終氷期最盛期)〜後氷期初頭に最盛となります。技術の中核は楔形芯(湧別技法)や圧痕剥離で、小さな刃(細石刃)を効率よく量産できること。末期には環境と生業の変化の中で消えていく傾向が見られます。
※本稿は先史時代の内容です。「蝦夷」は便宜的な地理ラベル(=北海道)
30秒要点
- いつ:起点は東北アジアの~28–20 ka。北海道ではLGM〜終末更新世に最盛、~12 kaごろに衰退。
- なに:楔形芯(湧別技法)+圧痕剥離で細石刃を量産。携行性・修復容易性に優れる。
- どこ:東北アジア広域 → 樺太・北海道(黒曜石資源と結びつく)。
- なぜ消える?:終末更新世の気候・植生・獲物の変化で、道具セットの再編が起きたため(複合要因)。
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本論
1)技術のキモ:楔形芯と圧痕剥離
マイクロブレードは、楔形の芯(コア)を作って、その側面から細長い刃(細石刃)を連続的に剥がす技術。湧別(ゆうべつ)技法は北海道で名付けられ、モンゴル〜カムチャツカなど東北アジアにも分布が知られます。携行性の高い合成刃具(柄に複数の刃をはめ込む)に向くため、寒冷地での広域移動や獲物の解体に便利でした。(技法と出現時期の総説)
2)時間軸:東アジアでの成立→北海道での最盛
レビュー研究では、圧痕剥離による細石刃は~28 kaごろから東北アジア各地に現れ、LGM後に一段と拡大します。北海道では、柏台1遺跡などの成果からLGM期に楔形芯系が確認され、終末更新世まで継続します。その後、気候と資源の変化に合わせて道具体系が更新され、細石刃は徐々に消えていきます。
3)補助線:ベーリンジアへの波及(北米本土は別系)
北東アジアで広がったマイクロブレードは(~28–20ka)、作り方もほぼ同じままベーリンジア〜アラスカに受け継がれ(~14–10.5ka)、地域的な連続性が見られます。ただし北米本土では主流にならず、クロヴィスのような別系の道具が中心でした。
4)空間軸:資源(黒曜石)との結びつき
北海道の黒曜石原産地(白滝・置戸・十勝三股・赤井川など)は、細石刃製作の素材供給基地でした。原産地同定研究では、白滝起源の黒曜石が北海道内外に広く分布したことが示され、技術×資源×移動がセットで広がったことを示唆します。
根拠と限界
- 根拠:圧痕剥離・楔形芯の技術記述、東北アジアの較正式年代レビュー、北海道の発掘成果(柏台1等)と原産地同定研究。
- 限界:地域差が大きく、最初の「起点」や拡散ルートの一本化は難しい。沿岸域の遺跡は海没・保存バイアスの影響を受ける。
確度(A/B/C)
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- A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
- B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
- C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
- ~28–20 kaに東北アジアで拡大:B(広域レビューで整合)。
- 北海道でLGM〜終末更新世に最盛・~12 kaに衰退:B(複数一次研究の整合)。
- 「起点の一極」仮説:C(地域差・編年不確実性が残る)。