ササン期の対インド交易は誰がどうつないだ?(湾口ゲートとギルドの実務接着)

ー 【特集】モンスーンが動かした香辛料ルート:インド洋ネットワーク ー

3–5世紀の対インド交易は、ササン商人+ギルドが、 ホルムズ海峡ゲートを核とするペルシア湾幹線と、 ガンジス・デルタ—パーク海峡—マンナールのベンガル湾“内海”回廊を モンスーンの年一往復で接着したことで成立した。 取引現場では関税・検査・秤量(通行の対価)と、 護送・保管・法的保障(政権の提供)がセットで回り、 ギルドが信用・情報・仲裁を担った。

※ギルド:商人の互助と規約にもとづく自治的ネットワーク。信用・情報・仲裁・倉庫を提供し、港役所/宗教施設と連携して取引を運用。

骨格:二本の幹線+一つの内海回廊

ペルシア湾幹線(西翼)—ホルムズが“通れる帯”の関門

外洋(アラビア海)と内海(ペルシア湾)の環境差で、航行は自然と 沿岸中継(オマーン/マクラーン)→湾口ゲート(ホルムズ)→湾奥集散(シャット・アル・アラブ)に収束。 ここで検問・課税・護送手配がパッケージ化した。

ベンガル湾“内海”回廊(東翼)—静穏帯で積替と越冬

ガンジス・デルタの潟湖・水路網から コロマンデル沿岸を南下し、パーク海峡を抜けて 静穏のマンナール湾—マンタイで中継。 外洋トランク(紅海・ペルシア湾)と“内海”がここで合流した。

実務の接着:関税↔保護・時間設計・信用の三点セット

① 関税↔保護(現場の交換)

商人側は関税・寄港料・検査・秤量を受け入れ、政権側は護送・治安・倉庫・法的保障でリスクを下げる。 越冬期は修繕と在庫管理がセット。これは政権の重要な収入源(ただし基幹財源は土地税等で、関税は“有意な副収入”の位置づけ)。 ササン朝(湾口・湾内)とインド側政権(グプタ期の港市群など)が、それぞれ受け皿を担った。

② 時間設計(モンスーンの年一往復)

夏の南西季節風で西航、冬の北東季節風で東航。 主要港では出帆窓に合わせて一気に走り、対岸で越冬して折り返す。 船団化は保護とスケールメリットを同時に確保した。

③ 信用(ギルド×宗教施設×港役所)

ギルド(広義:商人会合・同業組織)は前貸し・保証・記録を担い、 宗教施設や港役所が仲裁と度量衡の確認を支えた。 これにより、安い港で仕入れて高い港で売る港間の裁定(アービトラージ)が安全化。

起点の分岐:マラバールとグジャラート

マラバール(胡椒集荷の“出帆窓”)

胡椒など軽量高付加価値品の積出で著名。外洋へ出るときの西行の出帆窓として機能した。

グジャラート(潮汐湾口の再積載・計量)

グジャラート潮汐湾口(再積載・計量)は 潮汐差が大きく、再積載・計量・封緘の場+内陸河川(ナーラマダー等)と接続する価格裁定の拠点。ここからホルムズへ入る出帆窓として機能した。

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  • A:ホルムズの湾口ゲート機能(通行管理・課税・護送)、マンナール—マンタイの中継・越冬の役割。
  • B:グジャラート湾口の再積載・裁定、沿岸中継→関門→湾奥集散の運用導線。
  • C:特定の港・ギルドによる恒常独占像(時期・政変で変動)。