インド洋“コースタル・ハイウェイ”の検証(先史の移動ルート)

— 出アフリカの南回り|インド洋“コースタル・ハイウェイ”の検証 —

海面が下がり(海退)、沿岸の干潟・湾入・湧水点がつながる「環境窓」が開くと、食資源と補給の拠点が線状に並びます。 このとき成立したと考えられるのが、アフリカ東縁から南アジア・ワラセアを経てサフルへ至る “Indian Ocean Coastal Highway(インド洋コースタル・ハイウェイ)”です。

※主分類=南アジア:跨域:西アジア/東南アジア/オセアニア、境界:北東アフリカ=シナイ

用語ミニ注

サフル(Sahul)低海水準期に オーストラリア本土・ニューギニア・タスマニア が一体化した大陸塊。G1期の到達先。島嶼帯ワラセアを越えた先に位置。
スンダ(Sunda)東南アジア本土+大スンダ諸島の陸棚陸塊(低海水準期に拡大)。サフルの対概念。
ワラセア(Wallacea)スンダとサフルの間の島嶼帯。海面が下がっても連続陸化せず、複数回の渡海が必要な“最後の関門”。

30秒要点

  • G1期(約5.5〜4万年前)に沿岸資源と渡渉点が連結し、持続的移動が可能化。
  • スリランカのFa-Hien Lenaは~48–45kaの最古級マイクロリスと熱帯雨林適応を示す一次証拠。
  • ティモールのJerimalaiは~42kaの外洋性漁撈・釣針でワラセア通過の技術基盤を示唆。
  • ボルネオのニア洞窟は~46–34kaの人類占拠で同時期拡散を裏づけ
  • 紅海南口(バブ・エル・マンデブ)は海退時の通過性が上がる可能性—数値地形・潮汐モデルが支持。

対応マップ

このノートのピンは #757575:レイヤーは03/04/05です

初期表示レイヤー:01, 03, 04, 05, 06 / 版:v20250926

どこを・どう繋いだのか

1)紅海南口→アラビア南岸(ドファール)

バブ・エル・マンデブは海退で水面幅が縮小し、島伝い/短距離渡渉の可能性が高まります。 最新の海面・潮汐モデルは、後期更新世の低海水準期に人の通過性が上がるシナリオを支持します。

2)マクラン〜インド西岸(サウラシュトラ)

乾燥優勢の海岸ですが、湾入と湧水・オアシスが点在し、湿潤パルス時に「点→線」へ。 直接年代は乏しい一方、更新世旧石器の散布や地理必然性が高く、連絡路の候補とみなせます。

3)インド南端→スリランカ(沿岸〜雨林コリドー)

Fa-Hien Lenaでは、約48–45kaにマイクロリスと小型獲物狩猟・植物利用が確認され、 「沿岸補給帯(マンナル湾)+内陸雨林資源」という二重の支えで定着が成立したことを示します。

4)ワラセアを越えてサフルへ

ワラセアは海面低下時でも複数の渡海を要する「最後の関門」。ティモール(Jerimalai)の~42ka資料(外洋性漁撈・貝製釣針)は、視界外の漁場利用や航行技能の存在を示唆し、サフル到達の技術的基盤と整合します。さらに、ニア洞窟の人類占拠(~46–34ka)が同時期の広域定着を補強します。

根拠と限界

  • 根拠:① 南方沿岸拡散モデル(レビュー)② スリランカ(Fa-Hien Lena)・ティモール(Jerimalai)・ボルネオ(Niah)の一次級/準一次級証拠、③ 紅海南口の数値地形・潮汐モデル。
  • 限界:沿岸遺跡は海面上昇や侵食で失われやすく、直接年代が点的。マクランなど乾燥沿岸の証拠は速報・推定が多く、連続性の復元は未解決。

確度(A/B/C)

※このサイトでは、資料の信頼度(A / B / C)を簡単なラベルで示します。
詳しくは 凡例:、資料の信頼度(A / B / C)へ →

  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)

総合評価:B(複数一次整合)。
区間別では、スリランカ/ワラセア=A〜B、マクラン=C、紅海南口の通過性=Bと評価します。

参考資料

  1. Curnoe D. 2016. Niah Caveの再評価(Frontiers in E&E)。
  2. Wedage O. et al. 2019. Fa-Hien Lena:~48–45kaのマイクロリスと熱帯雨林適応(PLOS ONE)。
  3. Bae C. et al. 2017. 南方沿岸ルートの総説(Science)。