上部旧石器化の指標:ブレード技術と象徴行動

—出アフリカの転換点|「刃部の量産」と「象徴行動」のセットで読む —

G1(約5〜4万年前)に顕著化する「上部旧石器化」は、ブレード/ブレードレットの量産体系と、装飾・顔料などの象徴行動の“頻度上昇”が鍵となる。地域差を前提に、レヴァント南アジアワラセアの一次級証拠で、移動と適応の質的転換を検証する。

上部旧石器化(Upper Paleolithic transition)は、単なる道具の置換ではありません。 ブレード/ブレードレットの量産体系(volumetric 生産や双方向剥離)と、 装飾・顔料などの象徴行動の増加が、地域差を伴いつつ ~5〜4万年前に広く可視化します。

※地域:主=南アジア、跨域=**西アジア/東南アジア/オセアニア(サフル)

用語ミニ

UP化(上部旧石器化)中石器(MP/MSA)から上部旧石器(UP)への移行で見える、技術と行動の質的転換。目安は~5–4万年前に各地で可視化:規格的ブレード量産+象徴行動の頻度上昇。
IUP(初期上部旧石器)移行帯。レヴァロワ系の考え方を残しつつブレード化が本格化。診断の手がかり:Levalloiso-blade(移行的なブレード)や対向/単向の剥離、初期整形の痕跡など。概ね~50–45ka。
EUP(早期上部旧石器)確立段階。容量的(volumetric)ブレード/ブレードレットの量産が主流となり、装飾・顔料・骨角牙製など象徴行動の頻度が上昇。概ね~45–40ka以降。
ブレード / ブレードレットブレード=長さが幅の2倍以上の細長い剥片(縁がほぼ平行)。ブレードレット=その小型版。IUP〜EUPの判断材料。

※ 地域差が大きいので、「欧州のUP像=世界標準」ではない点に注意(例:南アジアのミクロリス化)。

30秒要点

  • 技術指標:IUP〜EUPにかけてのブレード/ブレードレット量産(対向・単向・容量的コア)。
  • 象徴指標:個人装飾・顔料・骨角牙製の出現と頻度上昇(地域差あり)。
  • 地域例:Fa-Hien Lena(~48–45 ka)、Jerimalai(~42 ka)、Ksar Akil で時期・様相を比較。
  • 南アジアの要点:“欧州型のブレード大量生産”ではなく、小型化+複合化(ミクロリス量産×複合柄)がUP的転換の主軸。

対応マップ

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初期表示レイヤー:01, 03, 04, 05, 06 / 版:v20250926

何をもって「UP化」とみなすか

1)技術(テクノロジー)— ブレード/ブレードレット量産

IUPは、レヴァロワ起源の剥離論理とvolumetric(容量的)ブレード生産が同居し得る移行帯で、地域適応の幅が大きい段階です。レヴァントのアフマリアンでは、双方向・対向平台を含むブレード〜ブレードレットの量産が特徴化し、el-Wad pointなどの定型尖頭器と結びつきます。レバンティン・オーリナシアンはヨーロッパ型と必ずしも同型ではなく、地域差を持つUP複合として理解されます。

2) 象徴(シンボリック)— 装飾・顔料・遠距離ネットワーク

IUP〜EUPにかけて個人装飾(ビーズ・歯牙ペンダント)や顔料が反復して現れ、骨角牙製品の利用も加わります。これは社会的アイデンティティや情報共有の強化と結びつき、遠距離原材の移動(黒曜石など)増加とも整合します。

3) G1の核と“地域固有UP化”

Fa-Hien Lenaスリランカ南西雨林帯)は約48–45 ka に最古級ミクロリスと熱帯雨林適応(技術B〜A)。Jerimalai(ワラセア)はサフル到達前の最終関門=ティモール海横断帯に面し、約42 ka の外洋性漁撈・貝製釣針(象徴B)を示す。レヴァントのアフマリアン/レヴァンティンUPはブレード〜ブレードレット体系(技術A〜B)で早期UPの基盤を成す(代表遺跡:Ksar Akil, Lebanon)。

根拠と限界

  • 根拠:IUPの定義・分布に関する総説、アフマリアンの技術分析、南アジア(Fa-Hien Lena)とワラセア(Jerimalai)の一次級研究。
  • 限界:象徴資料は頻度・反復性が鍵で、単発事例(報道・二次まとめ含む)は評価に注意。地域差が大きく、“欧州型UP”を普遍指標化しないこと。

確度(A/B/C)

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  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)

技術指標:A(一次級・複数一次整合)〜B(地域差を含むが整合)。
象徴指標:B(反復事例の蓄積)/単発のみの地域はC。

参考資料