—出アフリカ|南ルートとサフル到達(沿岸適応の実像が捉えにくいスンダ縁辺)—
インドネシア〜マレー半島に広がるスンダ陸棚(Sunda Shelf)は、更新世には広大な低地と河川網が広がっていましたが、完新世の海面上昇で広範囲が水没しました。このため、沿岸適応の実像が陸上考古で捉えにくいという「保存バイアス」が生じています。本ノートは、その背景と含意を整理します
30秒要点
- 海面史:後氷期の急速な海面上昇で、スンダ棚の沖積低地・古河口帯が広く水没。沿岸遺跡は現海底に沈んだ。
- 保存性:熱帯域では有機質の劣化・攪乱(シロアリ等)が強く、骨や木製品の保存が悪い。層位攪乱評価も課題。
- 現在の証拠:ティモールのレイリ/ジェリマライなど内・外洋資源利用の初期占拠はあるが、連続した沿岸列は疎。海底探査がカギ
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このノートのピンは
#85C7F2:レイヤーは01
です
本論:何が“見えにくい”のか
1)地形と海面変動
スンダ棚は浅い大陸棚で、最終氷期には広大な平野とパレオ川が出現。約20 ka以降の海面上昇(複数の急上昇フェーズ)で古沿岸帯が水没し、現代の陸上調査では沿岸適応の痕跡が失われやすい。堆積中心(デポセンター)や浅海砂体の移動も、遺跡の露出・保存を左右する。
2)熱帯の保存・攪乱
高温多湿・酸性土壌に加え、生物攪乱(例:シロアリ)や豪雨による再堆積が有機質遺物の保存を難しくする。骨格資料の欠損や層位攪乱評価の難しさは、年代の幅を大きくし、行動の解像度を下げる要因になる。
3)それでも見えていること
ワラシア東縁のレイリ(~44.6 ka)、ジェリマライ(~42 ka)では、外洋魚と貝製鈎・石器群が報告され、更新世からの海洋適応を示す。これは「沿岸の連続列」が欠けても、踏み石区間の生業を示す重要線である。
4)海底に眠る可能性
世界的な沈水景観研究の進展は、東南アジアでも適用可能。ソナーやサブボトムプロファイラでパレオ川・古河口・潟湖の“当たり”を探り、試掘で供給源・居住痕跡を狙うアプローチが想定される。インドネシアでも沈水ランドスケープ考古のポテンシャルが指摘されている。
確度(A/B/C)
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- A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
- B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
- C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
- 「海面上昇で沿岸証拠が海底にある」「熱帯ゆえ有機質が残りにくい」はA〜Bで堅い。
- 「沈水域に連続した遺跡列が存在するか」の細部は調査未了のためC。
参考資料
- Hanebuth, T. J. J. et al. (2009) “Termination of the Last Glacial Maximum sea-level lowstand.” Global and Planetary Change.
Publisher。 - Hawkins, S. et al. (2017) “Oldest human occupation of Wallacea at Laili Cave, Timor-Leste …” Quaternary Science Reviews.
Publisher - Marwick, B. et al. (2016) “Early modern human lithic technology from Jerimalai …” Journal of Human Evolution.
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