ワラシア回廊—ティモール海の横断（南回り）可能性

—出アフリカ｜南ルートとサフル到達（横断の「可能性」）—

スンダ棚の東に連なる島々（ワラシア）を拠点に、最終的にティモール海を渡ってサフルへ到達したのか。本ノートは、相互視認性・風海流・最小コスト経路モデル・考古記録を突き合わせ、横断の「可能性」と不確実性を評価する地域ノートです。南回り（小スンダ列島→ティモール海→北豪）を本論の主題とし、北回り（スラウェシ→モルッカ→ニューギニア）は比較として補足します。

30秒要点

  • 視認性：低海面期の地形復元ではティモール／ロティ側からサフル北縁が視認可能なシナリオが示される。
  • モデル：最小コスト経路は北回り（スラウェシ→ニューギニア）と南回り（バリ→ティモール→北豪）の両案を提示。南回りでも横断は数十km級の海面渡渉を伴う。
  • 行動証拠：ティモールのジェリマライ/レイリは4.5〜4.2万年前の占拠と外洋魚・貝鈎を示し、航海・漁撈の成熟を裏づける。
  • 含意：横断は漂流ではなく意図的航海だった可能性が高い（4〜7日規模の航程モデル）。

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このノートのピンは #558B2F：レイヤーは03/04です

初期表示レイヤー：01, 03, 04, 05, 06 ／ 版：v20250926

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本論：横断の“成立条件”

1）相互視認性（見えることの効果）

島の形状・標高と海面低下を考慮した復元では、ティモール／ロティからサフル棚北縁の陸地が望見できたとする推定がある。視覚目標の提示は、意図的な出航判断と方位維持に大きく寄与する。

2）風と海流（季節性）

モンスーンと表層流は季節で反転・変調する。順流・順風の季節窓に合わせた出航は、漂流よりも高い成功率をもたらすとモデルが示す。

3） 経路モデル（最小コスト）

地理・海況のコスト関数で計算されたルートは、北回り・南回りの双方を許容するが、南回りでもティモール海の“最後の跳躍”が主要なボトルネックになる。可航距離は数十km級で、多人数・複艇による連続横断が想定される。

4）考古記録（拠点の力量）

ティモールのジェリマライでは外洋性魚（マグロ類ほか）と世界最古級の貝製鈎が報告され、高度な漁撈・航海スキルが4.2万年前までに成立していた。レイリでも約4.46万年前の占拠が示され、踏み石側の準備を支える。

5） 目的航海か偶発漂流か

人口学・航海シミュレーションは、Sahulの初期定着を説明するには意図的・反復的な航海が必要で、偶発漂流のみでは説明しにくいと結論づける。航程は4〜7日程度の想定が妥当。

補足：北回り（スラウェシ→モルッカ→ニューギニア）の要点

北回りはスラウェシ→ハルマヘラ→セラム→鳥首半島（西ニューギニア）を島伝いに進み、一発の大ジャンプは避けつつ、海峡連鎖（マカッサル／モルッカ海域）が累積の難所となる。サフルへの進入はニューギニア経由で、低海面期にはアラフラ低地から豪大陸へ陸上移動が可能であった。

確度（A/B/C）

※このサイトでは、資料の信頼度（A / B / C）を簡単なラベルで示します。
詳しくは 凡例：、資料の信頼度（A / B / C）へ →

  • A 公的・一次級で直接確認（一次が複数一致でもA）
  • B 複数一次情報からの強い推定（反論や未確定部分あり）
  • C 仮説寄り（一次が乏しい／矛盾／作業仮説段階）
  • 「ティモール海横断が意図的航海だった」ことはB寄り。
  • 「南回り・北回りの両立可能性」はB。
  • 具体の出発点—中継—上陸の線は資料不足でC。

参考資料

  1. Bird, M. I. et al. (2019) “Early human settlement of Sahul was not an accident.” PNAS（オープンアクセス）.
    PMC（目的航海・人口学モデリング）
  2. Bird, M. I. et al. (2018) “Palaeogeography and voyage modeling indicates early human settlement of Sahul was through Timor–Roti.” Quaternary Science Reviews.
    Publisher（視認性・4〜7日航程モデル）
  3. O’Connor, S. et al. (2011) “Pelagic Fishing at 42,000 Years Before the Present …” Science.
    PubMed（外洋魚・貝製鈎：ジェリマライ）
  4. Hawkins, S. et al. (2017) “Oldest human occupation of Wallacea at Laili Cave, Timor-Leste …” Quaternary Science Reviews.
    Publisher

ワラシア回廊—ティモール海の横断可能性

スンダ棚の東に連なる島々（ワラシア）を拠点に、最終的にティモール海を渡ってサフルへ到達したのか。本ノートは、相互視認性・風海流・最小コスト経路モデル・考古記録を突き合わせ、横断の「可能性」と不確実性を評価する地域ノートです。南回り（小スンダ列島→ティモール海→北豪）を本論の主題とし、北回り（スラウェシ→モルッカ→ニューギニア）は比較として補足します。

30秒要点

  • 視認性：低海面期にはティモール／ロティ側からサフル北縁の陸地が望見できた可能性。視覚目標は意図的航海の判断材料。
  • モデル：最小コスト経路は南回り・北回りの両案を許容。ただし最大ボトルネックは南回りのティモール海横断に集中。
  • 行動証拠：ティモールのジェリマライ／レイリ（~45–42ka）が外洋漁撈・貝製鈎を示し、計画的な渡海能力を裏づけ。
  • 結論：漂流ではなく意図的・反復的な航海だった可能性が高い。北回りは海峡連鎖が難所、サフルにはニューギニア経由で入る。

本論：横断の“成立条件”（南回りを主題）

1) 相互視認性（見えることの効果）：島の標高と海面低下を考慮した復元では、ティモール／ロティからサフル棚北縁が望見可能だったとする推定がある。可視の目標は、出航判断と方位維持に寄与する。

2) 風と海流（季節性）：モンスーンと表層流の季節反転に合わせ、順流・順風の窓で渡渉する戦略が有利。南回りではティモール海の横断にこの窓を活かす。

3) 経路モデル（最小コスト）：地理・海況コストで解いたルートは南北両案を許容するが、南回りでは“最後の跳躍”＝ティモール海が支配的な難所。可航距離は数十km級で、多人数・複艇による連続横断が想定される。

4) 考古記録（踏み石の実力）：ティモールのジェリマライから外洋性魚（マグロ類ほか）と世界最古級の貝製鈎、レイリから~44.6kaの占拠が報告され、高度な漁撈・航海スキルの成立を示す。

5) 目的航海か偶発漂流か：人口学・航海シミュレーションは、Sahul初期定着を説明するには意図的・反復的航海が必要と示唆。航程は4〜7日規模が妥当。

補足：北回り（スラウェシ→モルッカ→ニューギニア）の要点

本ノートは南回り（ティモール海横断）を主題とするが、比較のために北回りコリドーも整理する。北回りはスラウェシ→ハルマヘラ→セラム→鳥首半島（西ニューギニア）を島伝いに進み、一発の大ジャンプは避けつつ、海峡連鎖（マカッサル／モルッカ海域）が累積の難所となる。サフルへの進入はニューギニア経由で、低海面期にはアラフラ低地から豪大陸へ陸上移動が可能であった。

地図では、03 ルートに南回り・北回り（ともに概略C）の点線、04 節点に出発側踏み石（ジェリマライ）／横断ボトルネック（南）／アーネムランド沖（南）／スラウェシ西岸／ハルマヘラ／セラム／鳥首半島／アラフラ低地（北）を表示する（いずれも代表点・比定：概略）。

根拠と限界

  • 根拠（A〜B）：視認性・航海モデル（PNAS/QSR）、最小コスト経路（JHE）、ティモールの一次考古資料（Science/QSR）が相互補強。
  • 限界（B〜C）：実際の船種・艇数・季節運用は未詳。連続した海岸遺跡列は保存バイアスで乏しく、ルートの細線化は仮説段階（C）。

確度（総括）

A/B/C： 「ティモール海横断が意図的航海だった」ことはB寄り。「南回り・北回りの両立可能性」はB。一方、具体の出発点—中継—上陸の線は資料不足でC。

図解の指示（画像は本文に挿入しない）

  • 地図：03 ルートに［南回り］ティモール海横断と［北回り］スラウェシ→モルッカ→NGの点線。04 節点に代表点ピン（南=ティール系／北=パープル系）。
  • タイムライン：−55 → −40 kaにジェリマライ／レイリの年代帯と、季節風の模式矢印。

参考資料（最小パック／リンク付き）

  1. Bird, M. I. et al. (2019). Early human settlement of Sahul was not an accident. PNAS. Open Access
  2. Bird, M. I. et al. (2018). Palaeogeography and voyage modeling indicates early human settlement of Sahul was through Timor–Roti. Quaternary Science Reviews. Publisher
  3. Kealy, S., Louys, J., O’Connor, S. (2018). Least-cost pathway models indicate northern human dispersal from Sunda to Sahul. Journal of Human Evolution. PDF
  4. O’Connor, S. et al. (2011). Pelagic Fishing at 42,000 Years Before the Present at Jerimalai, Timor-Leste. Science. PubMed
  5. Hawkins, S. et al. (2017). Oldest human occupation of Wallacea at Laili Cave, Timor-Leste. Quaternary Science Reviews. Publisher