— 出アフリカ南ルートを支えた地理的“足場”を読む —
起点は紅海南端バブ・エル・マンデブ(狭水道)。そこから、ドファール(ヌビア型石器)→ ジェベル・ファイヤ → アル・ウスタ(ジュッバ古湖)という更新世の“踏み石”列をたどり、半島内での滞在・移動の現実味を評価する。
※補足:本ノート表示ウィンドウはG1(-50〜-40 ka)に揃えています。
参照する更新世の直接証拠はMIS5(~125–85 ka)が中心です(“足場”の確認のため)。
30秒要点
- オアシス網:乾燥域に点在する水・植生の“点(オアシスや湧水・古湖)”が、季節や気候の条件が揃うと“線(移動回廊)”として連結し、結果として“面(移動可能域)”を形づくるネットワークのこと。
- 地形ゲート:紅海南端のバブ・エル・マンデブは更新世の海面・潮汐条件次第で通過可能性が議論される狭水道。出アフリカの南回り仮説の要衝。
- 証拠の列:ドファール(~106±9 ka, ヌビア型)→ジェベル・ファイヤ(~125 ka ほか複数期)→アル・ウスタ(~85–88 ka, ヒト指骨+古湖)という「証拠点」連結で、半島内の滞在・移動の可能性が高まる。
- 環境窓:内陸は乾燥だが、古湖やモンスーン強化期に人の進入・滞在が繰り返される。巨大砂漠ルブアルハリは基本的に障壁。
ミニ用語
節点(ノード) | 節点(ノード):資源が集まる拠点。潟・湧水・古湖・エスチュアリーなど。 |
オアシス網 | 節点が点在して連なる配置。雨の「窓」が開く時期ほど密に。 |
Green Arabia | 湿潤期にアラビア内陸へ湖・湧水・ワジが広がる現象名。 |
MIS 5e/5c/5a | 約129–116 / 105–95 / 85–75 ka。雨の“窓”。 |
MIS 3 | ~61–58 kaに湿潤ピークが指摘される揺らぎ期。 |
ルブアルハリ砂漠 | 常時砂漠ではない。湿潤期に古湖・河道が点在(期間限定)。 |
ワジ | 涸れ川。湿潤期に流水が戻り、補給・移動の回廊になる。 |
対応マップ
このノートのピンは
#424242:レイヤーは03
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/05
です
地形と更新世証拠の骨子(紅海 → 南岸 → 東縁 → 内陸)
南回りの想定では、まずバブ・エル・マンデブを越える必要がある。更新世の低海面期や潮汐条件を考慮した古地形・潮汐モデルは、 短距離化や島伝いの可能性を定量評価しつつも、依然として環境閾値(風浪・潮流・水位)に強く依存することを示す。
半島上では、南岸オマーンのドファール(Aybut Al Auwal)でアフリカMSA系譜とされるヌビア型石器群(~106±9 ka)が見つかり、アフリカ—アラビア間の技術連続が直接示される。東縁のジェベル・ファイヤからは~125 ka起点を含む中期旧石器群が報告され、湿潤期のたびに人類が東アラビアへ進入した複数相の証拠も提示されている。北内陸のアル・ウスタ(ジュッバ古湖)では約85–88 kaのヒト指骨が見つかり、古湖環境が内陸滞在の「水の足場」となり得たことを示す。
代表的な「踏み石」(更新世の直接証拠に限定)
- バブ・エル・マンデブ(紅海南端の狭水道)—南回りの地形ゲート。通過可否は海面・潮汐・風浪条件に依存。
- ドファール(Aybut Al Auwal)—ヌビア型石器(~106±9 ka)。アフリカMSA系の技術連続が鍵。
- ジェベル・ファイヤ(UAE)—~125 kaの中期旧石器群に加え、更新世の複数相占拠を示すデータが蓄積。
- アル・ウスタ(ジュッバ古湖)—約85–88 kaのヒト指骨+古湖成環境。内陸への拡がりを示す直接証拠。
※上記の証拠の年代はG1よりやや古い層(MIS 5)が中心だが、「環境窓が開くと人は入り、閉じると退く」という繰り返しの占拠ダイナミクスが示唆される。
したがってG1期の移動仮説は、証拠点(MIS 5)で観測される最適経路の“骨格”に沿って再現される可能性が高い。ただし連続トレースの空白は残る。
根拠と限界(確度)
※このサイトでは、資料の信頼度(A / B / C)を簡単なラベルで示します。
詳しくは 凡例:、資料の信頼度(A / B / C)へ →
- A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
- B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
- C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
- 確度A:更新世の直接証拠(アル・ウスタの人骨、ドファールのヌビア型、ジェベル・ファイヤの中期旧石器群)。
- 確度B:証拠点を結ぶ概略主軸(ルート)の再構成。古湖/モンスーン強化期の存在と整合。
- 確度C:個々区間の当期(G1)における実際の頻度・方向性・季節性。地表痕跡は断片的で、連続列島的な遺跡列は未充足。