秦の統一は何を整えた?(国家装置と回廊化の地ならし)

ー 【特集】秦から漢へ「原シルクロード」 ー

秦は前230〜221年に兼併で統一を達成し、郡県制の導入とともに度量衡・貨幣・文字・車軸幅を標準化した。これにより取引・記録・輸送が互換化し、命令と物資が早く遠くへ届く国家装置が整う。
馳道・直道に関所と関市が連なり、国境は“通れる帯”──回廊(道+関+市+補給)として機能した。
この仕組みは漢に継承され、のちのシルクロードの“受け皿”となった。

※回廊化:国境や辺境が「通れる帯」(道+関+市+補給)として働き、軍事と交易の動脈になること。

ミニ用語

馳道(ちどう)公用の幹線道路。勅使や軍が“急ぎで”走れるよう整備された道の総称。路面や幅をそろえ、駅(中継)で交代してスピードを出す。
直道(ちょくどう)秦が北辺へ通した“ほぼ直線”の軍用幹線。咸陽〜九原を一直線に近い線で結び、部隊や物資を一気に動かす狙い。
郡県制(ぐんけんせい)中央が役人を派遣して地方を直接統治する方式。郡(上位)→県(下位)の階層で全国を網にかける。
度量衡(どりょうこう)長さ・体積・重さなどの単位。これを統一すると、税・取引・倉庫管理の数字が全国で“同じ意味”になる。
半両銭(はんりょうせん)秦の標準銭。丸い銅銭に四角い穴。あとで漢が「五銖銭」にアップデート。
小篆(しょうてん)文字の標準フォント。字形をそろえて公文書を読みやすくし、誤読を減らす(のちに隷書へ移行)。
関市(かんし)関所近くの市場。検問と課税の拠点に“物の集散”がくっついた物流ノード。

度量衡・貨幣・文字・車軸(標準化は“技術束”で効く)

取引の単位(度量衡)・支払いの単位(半両銭など)・記録言語(小篆の標準化)・運搬規格(車軸幅)をそろえると、倉庫・市場・税・命令が互換化する。地方が別々の基準で動く摩擦を下げ、在庫や徴発の数字が合う。

道路・関・関市(命令と物資の“高速道路”)

馳道(幹線)と直道(北方へ一直線)が首都と辺境を直結。関(関所)は検問・通行管理と徴収(関税)を担い、関市は物資の集散点として機能した。

郡県制と“文書主義”(命令が末端まで届く)

郡県制の下で、命令・報告は木簡・竹簡の往復で可視化される。印(官印)と書式の統一が、責任と手続の標準化を支えた。現場の記録は倉庫・労役・刑罰・輸送計画など具体で、抽象理念ではなく日常運用としての「行政技術」が見える。

漢への継承(制度は残り、ネットワークが太くなる)

秦の統一は短命でも、度量衡・道路・関は漢に引き継がれる。文字は隷書化、貨幣は五銖銭へと更新されるが、基盤発想は同じ。のちに張騫の報告で西域需要が共有化すると、この装置は“外”とも連結していく。

このセクションの個別ノート

このセクションの主要人物

⤴︎ 秦始皇/始皇帝(人物ノート)

制度統一で広域移動を実装

前221年、始皇帝のもとで秦は度量衡や文字、車幅や道路を統一し、関所と幹線(馳道・直道)・長城をつないで軍政のルートを一本化、国内の行き来を安定させて後の「回廊」の土台を作った。

対応マップ

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初期表示レイヤー:01, 03, 04, 05, 10 / 版:v202501004

根拠と限界

  • 根拠:竹簡出土(睡虎地・里耶・放馬灘)など一次資料で、法・簿記・輸送・印の実務が確認できる。都市・道路・関については遺構・地理と史料(『史記』等)が整合。
  • 限界:秦直道や関市の正確な経路・配置は一部不明で、概略線での復元に留まる箇所がある。

確度A/B/C

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  • A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
  • B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
  • C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
  • 度量衡・貨幣・文書・郡県制の標準化:A
  • 馳道・直道・関による“回廊化”の機能:B
  • 秦直道・城壁の具体ルートの細部:C

参考資料