—出アフリカ|南ルートとサフル到達(横断の「可能性」)—
スンダ棚の東に連なる島々(ワラシア)を拠点に、最終的にティモール海を渡ってサフルへ到達したのか。横断の「可能性」と不確実性を評価。南回り(小スンダ列島→ティモール海→北豪)を本論の主題とし、北回り(スラウェシ→モルッカ→ニューギニア)は比較として補足します。
最小コスト経路は北回り(スラウェシ→ニューギニア)と南回り(バリ→ティモール→北豪)の両案を提示。南回りでも横断は数十km級の海面渡渉を伴う。
本論:横断の“成立条件”
1)相互視認性(見えることの効果)
島の形状・標高と海面低下を考慮した復元では、ティモール/ロティからサフル棚北縁の陸地が望見できたとする推定がある。視覚目標の提示は、意図的な出航判断と方位維持に大きく寄与する。
2)風と海流(季節性)
モンスーンと表層流は季節で反転・変調する。順流・順風の季節窓に合わせた出航は、漂流よりも高い成功率をもたらすとモデルが示す。
3) 経路モデル(最小コスト)
地理・海況のコスト関数で計算されたルートは、北回り・南回りの双方を許容するが、南回りでもティモール海の“最後の跳躍”が主要なボトルネックになる。可航距離は数十km級で、多人数・複艇による連続横断が想定される。
4)考古記録(拠点の力量)
ティモールのジェリマライでは外洋性魚(マグロ類ほか)と世界最古級の貝製鈎が報告され、高度な漁撈・航海スキルが4.2万年前までに成立していた。レイリでも約4.46万年前の占拠が示され、踏み石側の準備を支える。
5) 目的航海か偶発漂流か
人口学・航海シミュレーションは、Sahulの初期定着を説明するには意図的・反復的な航海が必要で、偶発漂流のみでは説明しにくいと結論づける(横断は漂流ではなく意図的航海だった可能性が高い)。航程は4〜7日程度の想定が妥当。
補足:北回り(スラウェシ→モルッカ→ニューギニア)の要点
北回りはスラウェシ→ハルマヘラ→セラム→鳥首半島(西ニューギニア)を島伝いに進み、一発の大ジャンプは避けつつ、海峡連鎖(マカッサル/モルッカ海域)が累積の難所となる。サフルへの進入はニューギニア経由で、低海面期にはアラフラ低地から豪大陸へ陸上移動が可能であった。
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確度(A/B/C)
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- A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
- B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
- C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
- 「ティモール海横断が意図的航海だった」ことはB寄り。
- 「南回り・北回りの両立可能性」はB。
- 具体の出発点—中継—上陸の線は資料不足でC。
参考資料
- Bird, M. I. et al. (2019) “Early human settlement of Sahul was not an accident.” PNAS(オープンアクセス).
PMC(目的航海・人口学モデリング) - Bird, M. I. et al. (2018) “Palaeogeography and voyage modeling indicates early human settlement of Sahul was through Timor–Roti.” Quaternary Science Reviews.
Publisher(視認性・4〜7日航程モデル) - O’Connor, S. et al. (2011) “Pelagic Fishing at 42,000 Years Before the Present …” Science.
PubMed(外洋魚・貝製鈎:ジェリマライ) - Hawkins, S. et al. (2017) “Oldest human occupation of Wallacea at Laili Cave, Timor-Leste …” Quaternary Science Reviews.
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