—出アフリカ|南ルートとサフル到達(サフル到達直前の“足場”像)—
ワラシア(スンダ棚とサフル棚の間の島嶼帯)は、深い海峡で隔てられた「跳び石」地形です。本ノートは、島ごとの初期占拠年代・生業・石器群を束ね、南ルートでサフルへ至る際の“足場”として機能したのかを考古学の観点から検証します。
30秒要点
- 年代:ティモール島のジェリマライ(Jerimalai)やレイリ(Laili)で約4.2〜4.5万年前の占拠が示される。
- 生業:外洋性魚類の捕獲や貝鈎の使用など、高度な漁撈が更新世から確認される。
- 含意:ワラシアに点在する遺跡は、段階的な島伝い移動(踏み石)を支持。ただし「連続した遺跡列」は未整備で、保存・露頭条件が制約。
- 到達側:上陸候補は北豪アーネムランド沿岸(代表点)。Madjedbebeの早期占拠が下限を補強。
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#7CB342:レイヤーは04
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です
本論:島嶼ごとの証拠
1)ティモール(東ティモール)
ジェリマライでは約4.2万年前の外洋性魚類(マグロ類など)と世界最古級の貝製鈎が報告され、沿岸適応と高度な航行・漁撈技術が裏づけられる。レイリでは約4.46万年前の占拠が提示され、東部ワラシアでの早期定着を補強する。
2)アロール(インドネシア)
トロン・ボン・レイ(Tron Bon Lei)は、後氷期初頭の埋葬とともに魚鈎などの海洋文化資料が見つかる。初期占拠の最古値はティモールほど古くないが、航海・漁撈文化の息の長い持続を示す重要拠点。
3)タニンバル(インドネシア南東部)
エリヴァヴァン(Elivavan)で約4.2万年前の占拠が新たに報告され、サフル棚北縁に近い“最終ステップ”候補として注目される。
4)ルート像(作業仮説)
スンダ縁を東進→ティモール群島→(アロールなど)→タニンバル→ティモール海の横断へ。各島の占拠年代と漁撈・装飾品・石器群は段階的移動と整合するが、海面低下期に露出していた沿岸帯の遺跡が現海底に沈み、連続性の実証が難しい。
ティモール海横断—“ボトルネック”の理由
ワラシアからサフルへ渡る最終区間は、深海域を挟むティモール海の横断です。氷期の海面低下期でも完全な陸橋は形成されず、当時の人々は視程内の島伝いと季節風・海流を利用して数十km級の海面横断を重ねたと考えられます。現在の海底に沈んだ沿岸帯が多く、遺跡の連続列が残りにくいことが、この区間を「証拠上のボトルネック」にしています。
確度(A/B/C)
※このサイトでは、資料の信頼度(A / B / C)を簡単なラベルで示します。
詳しくは 凡例:、資料の信頼度(A / B / C)へ →
- A 公的・一次級で直接確認(一次が複数一致でもA)
- B 複数一次情報からの強い推定(反論や未確定部分あり)
- C 仮説寄り(一次が乏しい/矛盾/作業仮説段階)
- 「ワラシア諸島に4.5〜4.2万年前の占拠・漁撈がある」ことはA〜Bで堅い。
- 「島々をどの順にどう繋いだか」の細線化はC寄り(現海底の沿岸帯が欠落)。
参考資料
- O’Connor, S. et al. (2011) “Pelagic Fishing at 42,000 Years Before the Present …” Science.
Publisher / PubMed - Hawkins, S. et al. (2017) “Oldest human occupation of Wallacea at Laili Cave, Timor-Leste …” Quaternary Science Reviews.
Publisher - O’Connor, S. et al. (2017) “Pleistocene fish-hooks from a burial context on Alor Island …” Antiquity.
Journal page - Shipton, C. et al. (2024) “Abrupt onset of intensive human occupation in Wallacea from 44 ka …” Nature Communications.
Publisher - Kealy, S. et al. (2018) “Least-cost pathway models indicate northern human dispersal into Wallacea …” Journal of Human Evolution.
Publisher
ワラシアの島々—“踏み石”仮説の検証
ワラシア(スンダ棚とサフル棚の間の島嶼帯)は、深い海峡で隔てられた「跳び石」地形です。本ノートは、島ごとの初期占拠年代・生業・石器群を束ね、南ルートでサフルへ至る際の“足場”として機能したのかを考古学の観点から検証します。
30秒要点
- 年代:ティモール島のジェリマライ(Jerimalai)やレイリ(Laili)で約4.2〜4.5万年前の占拠が示される。
- 生業:外洋性魚類の捕獲や貝鈎の使用など、高度な漁撈が更新世から確認される。
- 含意:ワラシアに点在する遺跡は、段階的な島伝い移動(踏み石)を支持。ただし「連続した遺跡列」は未整備で、保存・露頭条件が制約。
本論:島嶼ごとの証拠
1) ティモール(東ティモール):ジェリマライでは約4.2万年前の外洋性魚類(マグロ類など)と世界最古級の貝製鈎が報告され、沿岸適応と高度な航行・漁撈技術が裏づけられる。レイリでは約4.46万年前の占拠が提示され、東部ワラシアでの早期定着を補強する。
2) アロール(インドネシア):トロン・ボン・レイ(Tron Bon Lei)は、後氷期初頭の埋葬とともに魚鈎などの海洋文化資料が見つかる。初期占拠の最古値はティモールほど古くないが、航海・漁撈文化の息の長い持続を示す重要拠点。
3) タニンバル(インドネシア南東部):エリヴァヴァン(Elivavan)で約4.2万年前の占拠が新たに報告され、サフル棚北縁に近い“最終ステップ”候補として注目される。
4) ルート像(作業仮説):スンダ縁を東進→ティモール群島→(アロールなど)→タニンバル→ティモール海の横断へ。各島の占拠年代と漁撈・装飾品・石器群は段階的移動と整合するが、海面低下期に露出していた沿岸帯の遺跡が現海底に沈み、連続性の実証が難しい。
根拠と限界
- 根拠(A〜B):ティモール(ジェリマライ/レイリ)の年代・石器・魚類群集は査読論文で確立。アロールやタニンバルの新資料が補強線となる。
- 限界(B〜C):島間の連続する遺跡列は未整備。保存・侵食・熱帯の攪乱で初期層準の情報が途切れやすい。モデル推定(最小コスト経路など)との往還が必要。
確度(総括)
A/B/C: 「ワラシア諸島に4.5〜4.2万年前の占拠・漁撈がある」ことはA〜Bで堅い。一方、「島々をどの順にどう繋いだか」の細線化はC寄り(現海底の沿岸帯が欠落)。
図解の指示(画像は本文内に挿入しない)
- マップ図:ティモール(ジェリマライ/レイリ)・アロール(トロン・ボン・レイ)・タニンバル(エリヴァヴァン)を点で示し、ティモール海横断へ向かう仮説ルートを点線(確度C)で描く。
- タイムライン:−50 → −40 kaに各サイトの初期占拠帯を棒状で並置。
参考資料(最小パック/リンク付き)
- O’Connor, S. et al. (2011) “Pelagic Fishing at 42,000 Years Before the Present …” Science.
Publisher / PubMed - Hawkins, S. et al. (2017) “Oldest human occupation of Wallacea at Laili Cave, Timor-Leste …” Quaternary Science Reviews.
Publisher / PDF - O’Connor, S. et al. (2017) “Pleistocene fish-hooks from a burial context on Alor Island …” Antiquity.
Journal page - Shipton, C. et al. (2024) “Abrupt onset of intensive human occupation in Wallacea from 44 ka …” Nature Communications.
Publisher - Kealy, S. et al. (2018) “Least-cost pathway models indicate northern human dispersal into Wallacea …” Journal of Human Evolution.
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