漢書|前漢通史を「志」と「列伝」で読む基幹史書

前漢(西漢)を高祖(劉邦)から新(王莽)まで一貫して叙述。紀伝体で、帝紀・列伝に加え「志(制度・地理・天文・食貨など)」が充実しており、政策史・制度史の一次情報として要となる。

基本情報

対象年代前漢(高祖〜王莽)。おおむね 前202年〜西暦23年をカバー(建国〜新の滅亡)。
成立時期後漢初期(1世紀後半〜2世紀初頭)。班固が基本編纂を担い、その没後に班昭・馬續らが補訂・完結。
※60〜92年(班固)→ 111年完成(班昭〔天文志は馬続協力〕)
編者班固(32–92)撰。父・班彪の草稿を継ぎ、東観で増補改訂。没後、妹の班昭と馬續らが表・志を整えて刊行体系を仕上げた(後漢朝廷の学官ネットワークを背景)。

体裁・構成

本紀(12)皇帝在位年ごとの大勢・主要施策を叙述。
表(8)年表・系譜の集成(人物・封爵・郡国などの一覧)。
志(10)制度・政策の総説(礼・楽・律暦・天文・地理・食貨・刑法など)。
列伝(70)人物・集団の伝記(将相・外戚・遊侠・西域・匈奴ほか)。

該当巻の例

『漢書』匈奴伝(上・下)/地理志/食貨志/西域伝

白登後の和親(前198)で往来の細い回線が維持され、互市・関市が交易の公式窓口を担う。武帝期には亭障・烽燧がつながり、河西四郡の駐屯と屯田が補給を常設化。さらに西域都護(前60)で管理がオアシス圏まで伸び、関中—敦煌—タリム縁辺へと続く“通れる帯=常設回廊”が成立した。

⤴︎ 国境はどう回廊になった?(和親・関市・護衛線で“通れる帯”を形成)

『史記』大宛列伝(張騫事)/『漢書』西域伝(張騫条)

張騫は前139年に初使、匈奴幽囚を経て西域の地理・勢力を報告。烏孫・大宛情報が河西開拓と対匈奴戦略の基盤となった。

⤴︎ 張騫(ちょうけん)

『史記』衛将軍驃騎列伝/『漢書』霍去病伝

霍去病は六出北疆、祁連山経略と封狼居胥(前119)で匈奴を分断、河西の版図化を加速。

⤴︎ 霍去病(かく・きょへい)

『史記』封禅書/『漢書』礼志・武帝紀

武帝期の国家演出を封禅を軸に描写。泰山封禅(前110)と諸祭祀の制度化が、対外遠征と歩調を合わせて帝権を象徴化。

⤴︎ 漢武帝(劉徹)

『漢書』地理志(楽浪郡条/燕地) 🇯🇵

「楽浪の海中」に倭人がおり、百余国に分かれ、季節ごと(歳時)に朝見・貢献したと記す。

結語の「云」は伝聞表現で、楽浪郡(前108年設置)の側から見た概説に留まることを示す。具体事件(57年金印・107年帥升)は『後漢書』が詳しい

⤴︎ 【特集】鉄と水田の拡大、クニの萌芽

主な注釈

  • 顔師古『漢書注』(唐):前代諸注を統合した基本注。訓詁・音義が充実。
  • 王先謙『漢書補注』(清):異文・考証を補い、制度史の精密な参照に有用。

よくある誤解と注意

  • 『漢書』は漢代すべて(前漢+後漢)を覆う→ 前漢(西漢)専書。後漢は范曄『後漢書』。
  • 体裁は『史記』と同じなので内容も同じ→ 体裁は紀伝体だが、『漢書』の志は制度・政策の一次情報として独自に厚い。
  • 張騫・匈奴の詳述は『史記』中心→ 『漢書』は西域伝・匈奴伝・地理志に地理・制度・年次がまとまり、回廊化(河西四郡・関市・都護)を追いやすい。

参考資料