毎年秋、奈良国立博物館で開かれる「正倉院展」。
2026年は第78回。1946年の第1回から数えて、ちょうど80年目の節目です。
出陳される宝物は60件。全部をじっくり見るのは大変なので、この記事では「これだけは見ておきたい」宝物にしぼって、見る前に知っておくと楽しくなるポイントをまとめました。
「そもそも正倉院って何?」という方は、先にこちらを読むと話がつながります。
博物館で何を見る?──奈良時代、宝物は埋めずに蔵に残された博物館で時代順に展示を歩いていくと、奈良時代のケースの前で、ふと違和感を覚えることがあります。 そこだけ、モノがきれいなんです。 古墳時代のコーナーは、土の色を…
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今年の注目宝物を「どこから来たか」で並べると、こうなります。
| 宝物 | ひとことで言うと | どこから来た? | 前回の出陳 |
|---|---|---|---|
| 白瑠璃瓶(はくるりのへい) | ガラスの水差し | 中近東の工房 | 2014年 |
| 漆胡瓶(しっこへい) | 漆の水差し | 唐(中国) | 2016年 |
| 紅牙撥鏤碁子(こうげばちるのきし) | 象牙の碁石 | 聖武天皇の遺品 | 2005年(奈良) |
| 密陀彩絵箱(みつださいえのはこ) | 大仏開眼の日の箱 | 古い様式は高句麗壁画に通じる | 2012年 |
| 伎楽面 酔胡王(すいこおう) | 酔っぱらった王様のお面 | 芸能は百済から | 1964年 |
| 鳥獣花背方鏡(ちょうじゅうかはいのほうきょう) | 四角い鏡 | 唐(中国) | 2014年 |
| 虹龍(こうりゅう) | 龍の正体はテンのミイラ | 宝庫の中で見つかった | 2008年 |
西アジア、中国、朝鮮半島。
今年の正倉院展は、奈良に「世界」が集まっていたことがよく見える年です。
第78回正倉院展の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会期 | 2026年10月24日(土)〜11月9日(月)会期中無休 |
| 会場 | 奈良国立博物館 東西新館 |
| 開館時間 | 8:00〜18:00(金・土・日・祝は20:00まで)入館は閉館60分前まで |
| 観覧料 | 一般2,000円(日時指定券) |
| 出陳数 | 60件(うち初出陳11件) |
入場は「日時指定券」が基本
正倉院展は、入る時間を決めてチケットを買う仕組みです。指定した時間以外には入れません。
混みやすいのは午前中から15時ごろ。朝いちばん(8時の枠)か、夕方の「レイト割」がねらい目です。レイト割は月〜木が16時以降、金〜日・祝は17時以降で、一般1,500円になります。
注意:なら仏像館は休館中です
2026年の正倉院展の期間は、なら仏像館が改装工事のため休館しています。代わりに青銅器館が無料で開いていて、1階で中国の古代青銅器、2階で奈良博の仏像セレクションが見られます。
今年の主役は「2つの水差し」──ガラスの白瑠璃瓶と漆の漆胡瓶
今年いちばん注目したいのは、「西アジア生まれの水差し」の仲間が、ちがう素材で2つ出ることです。
たとえるなら、同じ「ワンピース」というジャンルでも、丈もシルエットも生地もちがう2着のようなもの。取っ手つきの水差しという「型」は共通でも、作った場所も材料も、背の高さもちがいます。
| 白瑠璃瓶 | 漆胡瓶 | |
|---|---|---|
| 素材 | ガラス(淡い緑がかった透明) | 木+黒漆+銀の薄板 |
| 作られた場所 | 中近東の工房と考えられる | 唐からの輸入品の可能性が高い |
| 形 | 重心が低く、下がふくらんだどっしり型 | 背が高く、すらりとした型 |
| 高さ | 約27cm | 約41cm |
| 作り方 | 息を吹き込んでふくらませる「宙吹き」 | 木の薄板を巻き上げて形を作り、漆を塗る |
| 見どころ | ヒビもくもりもない保存状態 | シカやオシドリ、山、草花の銀の切り絵 |
「胡瓶(こへい)」ってどんな形?
首がきゅっとくびれて、横に取っ手がついた水差し。
こうした西アジア由来の水差しを「胡瓶」と呼びます。「胡」は西の国々のこと。つまり西アジア生まれのデザインです。
名前に「胡瓶」がつくのは漆胡瓶のほうですが、白瑠璃瓶も同じ西アジアの水差しの流れをくむ、いわば親戚どうしです。
見るときのポイント
「取っ手がつく」「首がくびれる」という共通点を確かめたら、次はちがいを探してみてください。白瑠璃瓶は低くどっしり、漆胡瓶は背が高くすらり。同じ仲間なのに、素材と作り手でここまで変わります。
漆胡瓶──西の形を、東の技で
漆胡瓶は、西アジアの水差しの形を、東アジアの漆の技術で作ったものです。
黒い漆の上に、動物や草花の形に切り抜いた銀の薄い板を貼っています。
X線で調べると、中身は木の薄い板を巻き上げて形を作っていることがわかっています。
遠い西の国の器の形を、東の木と漆で作ってみせる。そこに当時の「西へのあこがれ」が見えます。
聖武天皇の遺品の目録『国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)』にも載っている、天皇愛用の品です。
白瑠璃瓶──1300年、ヒビひとつないガラス
白瑠璃瓶は、ガラスを吹いてふくらませて作った水差しです。
注ぎ口は水切れがよさそうな形で、取っ手はすっと軽やかに伸びています。
ガラスは割れもの。それが1300年たっても、ヒビもくもりもないまま残っている。
これは「埋めずに蔵にしまった」正倉院だからこそです。
正倉院のガラスといえば白瑠璃碗(はくるりのわん)が有名ですが、実はその「兄弟」にあたる碗が古墳から出ています。ガラスがどうやって日本に来たのかは、こちらの記事で。
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聖武天皇の碁石──紅牙撥鏤碁子と銀平脱合子
「撥鏤(ばちる)」は、奈良時代のスクラッチアート
紅牙撥鏤碁子は、象牙で作った碁石です。
大きさは直径1.5〜1.7cmほど。親指の爪くらいの小さな石に、鳥の絵が彫られています。
作り方は、子どものころに遊んだ「スクラッチアート」に似ています。
- 象牙を赤く染める
- 表面を彫る
- 彫ったところだけ、象牙の白い地が出てくる
赤い石に、白い線で鳥が浮かび上がる。さらに緑や黄色で少し色を足しています。
鳥はヤツガシラと考えられています。
正倉院には赤い碁石(紅牙)が132枚、紺色の碁石(紺牙)が120枚残っていて、今回はそれぞれ10枚ずつ展示されます。
碁石を入れていた箱も一緒に
今回は、この碁石が入っていたと伝わる「銀平脱合子(ぎんへいだつのごうす)」という入れ物も一緒に並びます。
中身と入れ物がそろって見られるのは、うれしいポイントです。
この碁石は、聖武天皇の四十九日に、東大寺の大仏に納められたものです。
天皇が実際に手にとって碁を打ったかもしれない石、と思って見ると、ぐっと身近になります。
大仏開眼の日の箱──密陀彩絵箱
密陀彩絵箱は、脚のついた黒い漆塗りの箱です。
表面には、白やオレンジ色で、鳳凰や不思議な鳥、唐草がいきいきと描かれています。
「密陀絵」は油絵のご先祖さま
「密陀(みつだ)」は、一酸化鉛のこと。
絵の具で描いた上から、一酸化鉛を混ぜた油を塗って仕上げています。
油でツヤを出すので、油絵の遠いご先祖さまのような技法です。
752年、この箱で香が運ばれた
ふたには紙が貼られていて、752年(天平勝宝4年)の大仏開眼会で、香を納めるのに使われたことがわかっています。
あの大仏さまが完成した、まさにその日の道具です。
絵の雰囲気が「ひと昔前」
この箱の文様は、高句麗の古墳壁画や、法隆寺の玉虫厨子(たまむしのずし)など、7世紀の美術に通じる古い雰囲気をもっています。
752年の箱なのに、絵柄は100年近く前の流行。そのずれを探しながら見るのも楽しいところです。
眺めているだけで楽しい宝物
伎楽面 酔胡王──62年ぶりの登場
今年いちばんの「レア宝物」はこれかもしれません。
前回の出陳は1964年。62年ぶりです。
伎楽(ぎがく)は、朝鮮半島の百済から伝わった仮面劇です。飛鳥時代から奈良時代にかけて、お寺でさかんに演じられました。
酔胡王は、その名のとおり「酔っぱらった西の国の王様」のお面。
家来を連れて宴会をする、という演目だったそうです。
大きな目、高い鼻、背の高い帽子。
奈良の人たちが想像した「西の国の人」の顔がここにあります。
軽い桐(きり)の木で作られていて、白い色は貝殻を砕いた胡粉(ごふん)です。
百済から来た芸能で、ペルシアの王様を演じる。
ひとつのお面に、朝鮮半島と西アジアの両方がつまっています。
鳥獣花背方鏡──四角い「海獣葡萄鏡」
鏡の裏に、獅子に似た霊獣とブドウのつるがびっしり描かれた鏡を「海獣葡萄鏡(かいじゅうぶどうきょう)」と呼びます。
ふつうは丸い形ですが、この鏡は四角。これはとても珍しいものです。
真ん中のつまみは獅子の形。そのまわりに霊獣が6頭、さらに外側に鳥や蝶や蜂。
一辺17cmほどの中に、生き物がぎっしりつまっています。
成分の分析で、唐から運ばれてきたものだとわかっています。
虹龍──龍の正体はテンのミイラ
最後は、正倉院でいちばん不思議な宝物です。
1429年、室町幕府の将軍・足利義教が、香木「蘭奢待(らんじゃたい)」を切り取りに正倉院を訪れたとき、「龍の干物を見た」という記録が残っています。
そして、この龍がいるから、正倉院の扉を開けると雨が降る、という言い伝えも。
その「龍」と考えられているのが、この虹龍です。
近年の研究で、正体はニホンテンのミイラ、しかもメスの可能性が高いとわかりました。
たまたま宝庫に入りこんで乾いてしまったのか、それとも龍に見立てて納めたのか。
それはいまもわかっていません。
※会期・料金などの情報は2026年9月時点のものです。最新情報は正倉院展公式サイトでご確認ください。
このあたりが気になった方へ
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