奈良のお寺をめぐっていると、あちこちで出会うのが四天王です。
でも、同じ「四天王」なのに、お寺によって大きさも顔つきもまるで違います。その理由は、造られた時代と素材が違うからです。
この記事では、東大寺と興福寺で見られる四天王を4組、並べてくらべます。後半では、おまけとして十二神将も2組くらべます。お堂の中は撮影できないので、現地で「答え合わせ」をするつもりで読んでみてください。
まず結論:四天王の見くらべ早見表
| 場所 | 時代 | 素材 | 大きさ | ひとことで |
|---|---|---|---|---|
| 東大寺 法華堂 | 奈良時代 | 乾漆造(漆と麻布) | 約3m | 巨大で堂々 |
| 東大寺 戒壇堂 | 奈良時代 | 塑造(粘土) | 約1.6m | 「動」と「静」の名コンビ |
| 興福寺 北円堂 ⚠️特別公開のときのみ | 平安初期 | 木心乾漆造(木+漆) | 約1.4m弱 | 小さいけれど力持ち |
| 東大寺 大仏殿 | 江戸時代 | 木造 | 大きい | 2体だけ完成、2体は頭だけ |
上から順に読むと、漆 → 粘土 → 木と漆 → 木と、素材が移り変わっていくのがわかります。
📷 見に行く前に知っておきたいこと
- 撮影:お堂の中で撮影できるのは東大寺 大仏殿だけです。法華堂・戒壇堂・北円堂・新薬師寺・興福寺国宝館は、中の撮影ができません
- パンフレット:仏像の写真と配置図が載っていて、家に帰ってからの「答え合わせ」に便利です。拝観するともらえるお堂のほか、興福寺国宝館のように解説リーフレットが有料のところもあります(2026年10月時点で1部100円)
- 北円堂:春と秋の特別開扉の期間しか中に入れません
- 拝観料・時間:変わることがあります。最新の情報は各お寺の公式サイトや、現地の案内で確認してください(東大寺・興福寺・新薬師寺)
- 現金の準備:拝観料は現金のみのところもあります。お堂ごとに払うので、千円札や小銭を多めに用意しておくと安心です
四天王と十二神将ってなに?
四天王=どのお堂にもいる警備員
四天王は、仏さまのいる世界の東西南北を守る守護神です。
| 方角 | 四天王 |
|---|---|
| 東 | 持国天(じこくてん) |
| 南 | 増長天(ぞうちょうてん) |
| 西 | 広目天(こうもくてん) |
| 北 | 多聞天(たもんてん) |
💡 東から時計回りに頭文字をつなげて「じ・ぞう・こう・た(地蔵こうた)」と覚えます。
四天王は特定の仏さまの家来ではありません。ご本尊が誰であっても、お堂の四隅に立って守ります。たとえるなら、どのビルにも入る警備会社のガードマンです。
十二神将=薬師如来の専属SP
十二神将は、薬師如来を信じる人を守る12人の大将です。なので、薬師如来がご本尊のお寺にセットでいます。たとえるなら、薬師さんだけを守る専属のSPです。
💡 薬師如来は「病気を治す仏さま」で、左手に薬壺(やっこ)を持っていることが多いのが目印です。ただし薬師寺の薬師如来のように、古い像は何も持たないこともあります。そのときは、まわりに十二神将や日光・月光菩薩がいるかで見分けます。
また、十二神将はのちに十二支と結びつけられ、1体ずつ干支が割り当てられました。十二神将のいるお寺では、自分の干支の神将を探してお参りする人も多いですよ。
素材でこんなに変わる!四天王4組
東大寺・法華堂:漆と麻布で造った巨人(乾漆造)

法華堂(三月堂)は、東大寺に残るいちばん古い建物です。大仏ができる前からあった「金鍾寺(こんしゅじ)」というお寺のお堂のひとつだったと考えられています。
ここの四天王は、高さ約3m。ご本尊の不空羂索観音(ふくうけんさくかんのん)を囲む10体の仏像は、すべて奈良時代の国宝です。
素材は乾漆造(かんしつづくり)。ひと言でいうと「張り子」の作り方です。
- 粘土で形をつくる
- その上に、漆をしみこませた麻布を何枚も貼り重ねる
- 乾いたら、中の粘土を抜く
中が空洞なので、大きくても軽いのが強みです。そのかわり、漆はとても高価でした。国が総力をあげていた奈良時代だからこそできた、ぜいたくな技法です。
👀 現地で見るところ:3mの大きさと、堂々とした立ち姿。見上げるとその迫力に圧倒されます。
東大寺・戒壇堂:粘土で造った「動」と「静」(塑造)

戒壇堂(かいだんどう)は、お坊さんになるための儀式を行う場所です。754年、唐から来た鑑真(がんじん)が大仏殿の前に戒壇を築いたのが始まりです。いまの建物は江戸時代(1732年)の再建ですが、四天王は奈良時代のものです。もとは東大寺の別のお堂にあったものが移されたといわれています。
素材は塑造(そぞう)。木の芯に粘土を盛りつけて形をつくる「粘土細工」です。粘土なので、顔の筋肉や細かい表情まで生き生きと表せます。
ここの四天王は、2体ずつの対比がみどころです。
| 四天王 | 表情 | |
|---|---|---|
| 動 | 持国天・増長天 | 目をカッと見開いている |
| 静 | 広目天・多聞天 | 目を細め、遠くをじっと見つめる |
👀 現地で見るところ:4体とも、瞳には黒い石がはめ込まれていて、それが鋭いまなざしを生んでいます。なかでも広目天は、武器ではなく筆と巻物を持っています。眉をひそめて遠くを見つめる顔は、戒壇堂でいちばん人気です。
興福寺・北円堂:木の芯に漆を盛った、小さな力持ち(木心乾漆造)
⚠️ 北円堂は、春と秋の特別開扉の期間しか中に入れません。 行く前に興福寺の公式サイトで日程を確認してください。

北円堂(ほくえんどう)は、721年に藤原不比等(ふじわらのふひと)の一周忌のために建てられた八角形のお堂です。いまの建物は鎌倉時代(1210年)の再建ですが、それでも興福寺に残る建物のなかではいちばん古いものです。
ここの四天王は、791年(平安時代のはじめ)の作です。もとは大安寺(奈良市)にあり、のちに興福寺へ移されました。
素材は木心乾漆造(もくしんかんしつづくり)。
- 木で大まかな形を彫る
- その上に、漆と木の粉を混ぜた「木屎漆(こくそうるし)」を盛って、細かい形を仕上げる
法華堂の乾漆造(漆が主役)から、木彫り(木が主役)へ移っていく途中の技法です。奈良時代から平安時代への移り変わりが、素材にあらわれています。
👀 現地で見るところ:高さは1.4mに届かないほど小さいのに、下半身がどっしりと安定していて力強さがあります。全体に表情が大げさで、持国天の瞳はどこかユーモラスです。
東大寺・大仏殿:江戸の木彫り、でも2体は頭だけ(木造)
最後は、江戸時代の大仏殿の四天王です。素材はいちばん身近な木造です。
ここは、ほかの3組とまったく違います。江戸時代の再建で、広目天と多聞天の2体しか完成しなかったのです。持国天と増長天は、資金が尽きて頭だけが造られ、いまも大仏殿の中に置かれています。




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おまけ:十二神将も見くらべ
十二神将も、奈良で素材ちがいの2組をくらべられます。
| 場所 | 時代 | 素材 | ひとことで |
|---|---|---|---|
| 新薬師寺 | 奈良時代 | 塑造(粘土)の立体 | 薬師如来をぐるりと囲む等身大の12体 |
| 興福寺 国宝館 | 平安時代(11世紀) | 板彫(板に浮き彫り) | 板なのに飛び出して見える |
新薬師寺:薬師如来を囲む、粘土の12体

奈良に薬師如来が多いのは、天然痘などの病気が流行った時代に「病気を治してくれる仏さま」がとても頼りにされたからです。新薬師寺も、光明皇后が聖武天皇の病気の回復を祈って建てたと伝わっています。
新薬師寺の本堂は、奈良時代の建物です。中に入ると、ご本尊の薬師如来(左手に薬壺)を中心に、十二神将が円形にぐるりと並んでいます。
十二神将は、戒壇堂の四天王と同じ塑造(粘土)で、奈良時代の国宝です(1体だけは昭和の補作)。高さは約1.5〜1.7mで、ちょうど人と同じくらいの大きさです。
👀 現地で見るところ:いまは土の色ですが、もとは青・朱・緑などで鮮やかに塗られていました。よく見ると、ところどころに色が残っています。
興福寺 国宝館:板から飛び出す12体(板彫)
興福寺国宝館の板彫十二神将は、平安時代(11世紀)の作です。もとは東金堂のご本尊・薬師如来の台座のまわりにはめ込まれていたと考えられています。
素材はヒノキの板。厚さのない板に浮き彫りにしているのに、手足や顔が前に飛び出して見えます。
👀 現地で見るところ:表情やポーズがとてもユーモラスで、歌舞伎の見得を切るような姿もあります。
まとめ:素材を見れば、時代が見えてくる
| 素材 | どんな作り方? | 今回の例 | 時代 |
|---|---|---|---|
| 乾漆造 | 張り子のように麻布と漆を重ねる | 法華堂の四天王 | 奈良 |
| 塑造 | 粘土細工 | 戒壇堂の四天王・新薬師寺の十二神将 | 奈良 |
| 木心乾漆造 | 木彫りに漆を盛る | 北円堂の四天王 | 平安初期 |
| 木造(板彫も) | 木を彫る | 興福寺の板彫十二神将・大仏殿の四天王 | 平安〜江戸 |
同じ四天王でも、漆や粘土で造られた奈良時代から、木で造られる平安時代以降へと、素材がだんだん変わっていきます。
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